森まゆみの「暗い時代の人々」(朝日新聞出版:2023年9月30日第1刷発行)を読みました。
大正末から戦争に向かうあの「暗い時代」を、翔けるように生きた9つの生の軌跡を、評伝の名手が描き出す!
〈満州事変勃発から太平洋戦争終結にいたるまでの、あの「暗い時代」。その時、人々は何を考えていたのか、どこが引き返せない岐路だったのだろうか。この本の中でわたしが書いたのは、最も精神の抑圧された、1930年から45年の「暗い時代」に、「精神の自由」を掲げて戦った人々のことである〉(本書まえがきより)
本書のタイトルは、ハンナ・アレント「暗い時代の人々」にちなむ。アレントは、自由が著しく損なわれた時代に、荒廃した世界に抗い、自らに意思で生きて死んでいった、ロ-ザ・ルクセンブルクやヴァルター・ベンヤミンら知識人の、いわば「墓碑銘」を書いた。ただ、タイトルは同じながら、森さんのこの本は、著者の文体と流儀に見事に貫かれているとわかる。(略)少数の人々がともす光明を丁寧に見てゆく点で、アレントと著者の姿勢は共通しているが、著者の場合、各章で取り上げる人物について、彼ら彼女らの抱く理論や概念を明晰に描き出している点にまずはその特徴がある。(加藤陽子「解説」より)
半藤一利さん、中島岳志さん絶賛!!
「ここに描かれている人々は、昭和史の悲劇の中でかがやくほのかな光である。本書は、困難な時代を生きる私たちを照らす灯火となることだろう」
(半藤一利)
「時代に毅然と立ち向かった人たちは、いかなる人生を歩んだのか。危うい現代を生きるための必読書!」
(中島岳志)
目次
第1章 斎藤隆夫 リベラルな保守主義者
第2章 山川菊栄 戦時中、鶉の卵を売って節は売らず
第3章 山本宣治 人生は短く、科学は長い
第4章 竹久夢二 アメリカで恐慌を、ベルリンでナチスの台頭を見た
第5章 九津見房子 戸惑いながら懸命に生きたミス・ソシアリスト
第6章 斎藤雷太郎と立野正一 「土曜日」の人々と京都の喫茶店フランソア
第7章 古在由重 ファシズムの嵐の中を航海した「唯物論研究」
第8章 西村伊作 終生のわがまま者にしてリベルタン
森まゆみ:
1954年東京都生まれ。作家・編集者。早稲田大学政治経済学部卒業。出版社勤務の後、84年に友人らと地域雑誌「谷中・根津・千駄木」(通称「谷根千」)を創刊。2009年の終刊まで編集人を務める。98年「鴎外の坂」で芸術選奨文部大臣賞新人賞、2003年「『即興詩人』のイタリア」でJTB紀行文学大賞、14年「『青鞜』の冒険」で紫式部文学賞を受賞。歴史的建造物の保存活動にも取り組み、日本建築学会文化賞を受賞。著書に「お隣さんのイスラーム」「『五足の靴』をゆく」「谷根千のイロハ」「路上のポルトレ」「聖子」「京都不案内」「聞き書き・関東大震災」など。
過去の関連記事:
「鴎外の坂」
新潮文庫
平成12年7月1日発行
著者:森まゆみ
発行所:新潮社