松長有慶の「空海」(岩波新書:2022年6月17日第1刷発行)を読みました。
自然観、無限と有限、対立と融合、自と他。さらには教育理念、国家観。そして生と死……。弘法大師・空海の先駆的な思想を、密教研究の第一人者で、みずからも高野山に暮らす著者が、空海の書き記した多くの書物、手紙などをもとに多角的に解き明かす。ロングセラー『密教』『高野山』に続く、第三弾
密教では、相手の宗教的な信条、価値観、社会観などが異なっても、それらの異質的な面を取り上げて、排除するよりも、まず相手のもつ異質的な面の優位点を認識することから始まる。空海はそのことを、現代の私たちの生き方の中に教えている。(第四章「自と他」より)
本書は、空海の生涯に関する歴史的な叙述を意図したものではない。生涯を通じての特徴的な思想に重点を置き、その全体像を著書のみならず、書簡類も合わせて総合的に把握しようと試みた。(「あとがき」より)
目次
一 果てしない宇宙と有限世界
宇宙からの光/宇宙の根源と?がる声・音/無限と有限の世界/仏道修行のカリキュラム/仏教の中での禅定/インド密教の流れ/瑜伽に還る
二 自然観
密教宣布の開始/修禅の願い/高野山に籠る/俗事を避ける/なぜ、深山に籠るのか/山籠りの楽しさ/宝玉を抱いての山籠りはなぜか/大自然に仏の教えが潜む/天地は経典の箱
三 対立と融合
二元の対立/凡夫が仏であると気づく/即身成仏/金胎は対か不二か/個と全体/自・仏・衆生の三心/三種世間と六大説/空海の願文にみる成仏の願い/物にいのちを認める
四 自と他
他者と接する/教判/多元的な価値観/包摂と純化/智と理/師との出遇い/密教の相承/許しを願う/僧尼の堕落について/心と環境
五 読み替え
深い意味の読み込み/文字の読み替え/文章の読み替え/思想の読み替え
六 仏陀の説法
仏陀が語る/真理を仏とする/仏の三身/密教の仏身観/もう一つの四身説/真理が法を説く証拠/法身の説法を受け止める
七 教育理念
綜芸種智院の開設/教育環境/教育内容/教授の招請/教育資金/日本仏教からの提言/混迷の時代の日本仏教の役割/生きものの相互関連性/多元的な価値観/社会奉仕活動
八 国家と民衆
国を護るということ/インドにおける護国思想/中国における護国思想/空海と王権/空海と天皇との交流/四恩説の再検討/宇宙的なひろがりをもつ恩
九 生死観
空海に見る生と死/鬼神がもたらす死/悪鬼の排除/無常の教え/成仏への道/智泉の死/他界浄土/生死の苦からの離脱/精霊の成仏/自身の病気に際して
十 入定信仰
入定とは/高野山で生涯を閉じる/入定留身説/宗教的な伝承の意味/阿字のふるさとに還る/永遠に続く衆生救済の活動
あとがき
主要参考文献
索引
松長有慶:
1929年和歌山県高野山に生まれる
1951年高野山大学密教学科卒業
1959年東北大学大学院文学研究科印度学仏教史学科
博士課程修了、文学博士(九州大学)
高野山大学教授、同学長、大本山宝寿院門主、
高野山真言宗管長を経て
現在―高野山大学名誉教授、補陀洛院前官
主要著作―「密教」(岩波新書)
「高野山」(同上)
「密教の歴史」(平楽寺書店)
「松長有慶著作集」全5巻(法蔵館)
「理趣経」(中公文庫)
「訳中秘蔵宝論」等全6冊(空海著作シリーズ)(春秋社)