100分de名著、1月は「ジーン・シャープ」です。
ジーン・シャープ 1928~2018
非暴力闘争とは
ジーン・シャープの著作
プロデューサーAの思惑
「アラブの春」、「オキュパイ・ウォールストリート」、セルビアの民主化運動等、数々の市民運動で教科書のように読まれた一冊の本があります。「独裁体制から民主主義へ」。「非暴力におけるマキアヴェリ」「非暴力闘争におけるクラウゼヴィッツ」とも呼ばれるアメリカの政治学者ジーン・シャープ(1918- 2018)が、史上暴政をふるった数々の独裁体制を綿密に分析、それに対し非暴力による反体制運動がどこまで効果を上げることができるかを徹底的に究明した名著です。
「独裁体制から民主主義へ」が書かれた1990年代初頭、ミャンマーではクーデターを起こした軍事政権によって独裁的な政治体制が敷かれていました。ミャンマーの亡命外交官からの要請をきっかけに、非暴力闘争、抵抗運動へのヒントになればとタイ・バンコクにおいて英語とミャンマー語で書かれ雑誌に連載されたのがこの本の原型です。以来、世界で40言語以上に翻訳され、数々の民主化運動を成功に導いたとされます。198もの具体的な手法を提案しているのも特徴です。
論旨は極めてシンプル。独裁体制は単独では成り立たちません。有形・無形の民衆たちによる支持があってこそ成り立ってるといいます。一見強固で揺るがないようにみえる独裁体制には、その力の源を断つことで容易に瓦解する脆弱さが潜んでいます。綿密にたてられた全体計画、弱点に集中すべく慎重に選ばれた戦略、徹底して貫かれる非暴力によって、執拗かつ広範に展開される市民の運動が、やがて独裁体制を覆すことを可能にするといいます。
国際関係思想の専門家・中見真理(清泉女子大名誉教授)さんは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、再び起こったミャンマーでの軍事クーデター、香港での民主化運動への過酷な弾圧など、独裁的な強権政治が世界で猛威をふるっている今こそ「独裁体制から民主主義へ」を読み直す価値があるといいます。その理由は、シャープのヴィジョンが決して綺麗事ではなく、抵抗運動を、戦略、戦術、武器の体系を駆使した「暴力なき戦争」とみる冷徹でリアリスティックな洞察があるからだと強調します。
番組では、中見真理(清泉女子大名誉教授)さんを指南役として招き、「独裁体制から民主主義へ」を分り易く解説。現代社会につなげて解釈するとともに、そこにこめられた「独裁体制との向き合い方」「市民運動のあり方・進め方」「民主主義を維持・発展させていく方法」などを読み解いていきます。
ジーン・シャープ「独裁体制から民主主義へ」
中見真理(清泉女子大学名誉教授)
第1回 独裁体制は見かけほど強くない
第2回 非暴力と言う「武器」
第3回 非暴力ゆえの勝利
第4回 新たな独裁者を生まないために
ミャンマーの民主化運動
セルビアのミロシェヴィッチ追放運動
リトアニアの独立回復運動
非暴力行動198の方法
非暴力行動198の方法
中見真理:
1949年東京生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士課程(外交史・国際関係論)単位取得退学。現在、清泉女子大学文学部教授。専攻は、国際関係思想史。著書に、『柳宗悦 時代と思想』(東京大学出版会、2003年:同韓国語版、金順姫訳『柳宗悦 評伝:美学的アナキスト』ソウル:暁享出版社、 2005年)、 In Pursuit of Composite Beauty: Yanagi Soetsu,His Aesthetics and Aspiration for Peace (Trans Pacific Press & University of Tokyo Press,2011)主要論文に、「清沢冽の外交思想」(『みすず』19-7、1977年7月)、「太平洋問題調査会と日本の知識人」(『思想』728、1985年2月)、「日本外交思想史の研究領域を考える―戦後日本の平和論を問題にしつつ」(『年報近代日本研究』10、1988年)、「ジーン・シャープの戦略的非暴力論」(『清泉女子大学紀要』57、2009年)。
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