またまた始まりました「100分de名著」。
22022年12月放送は、「中井久夫スペシャル」です。
私たちにとって「心の病」とは何か?
治療困難とされてきた統合失調症の実像の解明、阪神・淡路大震災における被災者の心のケアなど、常に人々の苦しみに寄り添い続けた精神科医・中井久夫。優れた文筆家でもあった彼は、一般の人にも響く瑞々しい言葉で記された論文をはじめ、精神科医としての観点で綴られたユニークなエッセイ、医学書にとどまらず詩作品でも高い評価を受けた翻訳など、実に多彩な著作を残している。その中から『最終講義』『分裂病と人類』『治療文化論』『「昭和」を送る』『戦争と平和 ある観察』の5つの著作を紐解いて、そこに込められた独創的な文化論や平和論から、人が社会生活を営む本当の意味について考える。
精神科医。1961年、岩手県生まれ。医学博士。筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。爽風会佐々木病院等を経て、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、ラカンの精神分析。一方で、時事問題から文学、美術、音楽、サブカルチャー全般に及ぶ評論活動を行う。著書に『ひきこもりはなぜ「治る」のか? 精神分析的アプローチ』『「ひきこもり」救出マニュアル 実践編』(以上ちくま文庫)、『母は娘の人生を支配する』(NHKブックス)、『オープンダイアローグとは何か』(著訳、医学書院)ほか多数。『心を病んだらいけないの?』(與那覇潤氏との共著、新潮選書)で第19回小林秀雄賞を受賞。
プロデューサーAの思惑
治療困難とされてきた統合失調症の解明、阪神淡路大震災被災者のPTSDのケア、精神科看護師の育成等々に取り組み、人々の苦しみに徹底的に寄り添い続けた「こころの医師」がいます。中井久夫(1934-2022)。日本を代表する精神科医です。中井は、私たちが見過ごしがちな「心の問題」「人間の本質」を、単なる学術的なアプローチだけではなく、私たち一般人にも深く響く瑞々しい言葉を使って縦横に論じてきましたが、この8月に惜しまれつつ世を去りました。番組では、彼の代表作「最終講義」「分裂病と人類」「治療文化論」「戦争と平和 ある観察」「『昭和』を送る」等を読み解き、「私たちにとって心の病とは何か?」「私たちが社会の中に生きる意味とは?」「人が再生していくには何が必要か?」といった問題をあらためて見つめなおします。
中井久夫は当初ウィルス学を志すが研究体制に疑問を感じて精神医学へ転身。当時治療法が確立されておらず、治療困難とされていた統合失調症の症例と運命的な出会いをします。「時系列でグラフ化する」というウィルス研究時に培った方法を使うことで、これまで誰も注目しなかった寛解過程の中に、治療に向けてのいくつもの重要なファクターを発見。「風景構成法」など治療効果をもつ検査法を構築し、患者-医師間の関係を大きく改善していきました。そんな経験を踏まえて中井が執筆した著作の数々は、結果的に独創的な「文化論」「人間論」ともなっており、専門家の領域を超えて一般の多くの人たちが「自らの心の問題と向き合うための名著」として読み継がれています。
それだけではありません。中井久夫は、鋭い知性と深い教養を武器に「病の意味」「文化の役割」「戦争と平和」等のテーマについて精神科医としての観点から考察を続け画期的な著作を執筆していきます。中井の著作は、価値観がゆらぐ現代にあって、私たちが「人間とは何か」「時代とは何か」を見つめなおすための大きなヒントを与えてくれるのです。
番組では斎藤環さん(筑波大学教授・精神科医)を指南役として招き、中井久夫が追究し続けた独自の精神医学やその応用研究を分り易く解説。彼の代表作に現代の視点から光を当てなおし、そこにこめられた【人間論】や【文化論】【平和論】など、現代の私達にも通じるメッセージを読み解いていきます。