牧野雅彦の「ハンナ・アレント 全体主義という悪夢」(講談社現代新書:2022年9月20日第1刷発行)を読みました。
僕が最初にハンナ・アレントと出会ったのは、岩波ホールでの映画「ハンナ・アーレント」でした。ひっきりなしにタバコを吸うヘビー・スモーカーの印象が強い。この映画公開までアーレントの名を知る人はそれほど多くなかったでしょう。アイヒマン論争と思考する女性に焦点をしぼったこの映画は、多くの人の共感を得たのである、と矢野久美子は言う。
次に、矢野久美子の中公新書「ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者」でした。全体主義と対決し、「悪の陳腐さ」を問い、公共性と追及した生と思考の源泉に迫る、と本の帯にありました。矢野は、アーレントの生涯を日本語で確かなものにしておきたい、という希望から「アンナ・アーレント」を書き始めたという。
話は変わって、朝日新聞に「本の舞台裏」という記事が載ってました。タイトルは「知の世界へ誘う100ページ」です。講談社から出た「現代新書100」の告知(?)です。
朝日新聞:2022年10月1日
約100ページで教養をイッキ読み!
現代新書の新シリーズ「現代新書100(ハンドレッド)」刊行開始!!
1:それは、どんな思想なのか(概論)
2:なぜ、その思想が生まれたのか(時代背景)
3:なぜ、その思想が今こそ読まれるべきなのか(現在への応用)
テーマを上記の3点に絞り、本文100ページ+αでコンパクトにまとめた、
「一気に読める教養新書」です!
ということで,、最初に出たのがこれ!
内容が内容なだけに、さすがにイッキ読みは無理でしたが。
全体主義に警鐘を鳴らし続けたハンナ・アレント。
人々を分断し、生活基盤を破壊し尽くす「全体主義」。
ごく普通の人間が巻き込まれていく、その恐怖を訴え続けたアレント。
格差が拡大し、民族・人種間の対立が再燃し、
テクノロジーが大きく進化を遂げる今日の世界、
形を変えたディストピアが、再び現れる危険性はあるのか――。
全体主義のリスクから逃れるために、人間には何ができるのか。
スリリングな論考です。
本書の主な内容
反ユダヤ主義から始まった民族の殲滅
「普通の人々」こそが巻き込まれる恐ろしさ
国民国家の解体と階級・階層集団の消失
互いに無関係・無関心な人間の集合=「大衆」の誕生
事実よりもイデオロギーがまかり通る世界
「潜在的な敵」の摘発と「慈悲による死」
政治の世界で跋扈する隠蔽と虚構
全体主義に対抗できる二つの主体
「共通の世界」を守り抜く
全体主義をもたらしたさまざまの要因は今日においても存在し続けている。グローバリゼーションの名の下で進められているモノ、カネ、人の国境を越えた移動や交流は、経済的な格差の拡大やそれにともなう民族、人種間の対立を生み出しつつある。経済発展と手を携えて進行する科学技術・テクノロジーの進展は、それまでの人間の生活のあり方を変容させつつある。そうした状況の中で「全体主義」が形を変えて再び登場する危険はむしろ拡大している。
(「はじめに」より)
目次
はじめに 未来の「全体主義」に抗うために
第1章 反ユダヤ主義の起源
第2章 「大衆」の登場
第3章 全体主義の構造
第4章 全体主義が破壊するもの
第5章 抵抗の拠り所としての「事実」
第6章 「事実の真理」を守り抜く
おわりに 希望を語り継ぐこと
注釈一覧
読書案内
あとがき
ハンナ・アレント:
哲学者・思想家。1906年、ドイツ・ハノーバーでユダヤ系の家庭に生まれる。マールブルク大学でハイデガー、フライブルグ大学でヤスパースにそれぞれ学ぶ。ナチス政権が誕生した1933年、フランスに亡命し、亡命ユダヤ人教出活動に従事。1941年、アメリカに亡命した後、1951年に市民権取得。バークレー、シカゴ、プリンストン、コロンビア各大学の教授・客員教授などを歴任。1975年、69歳の生涯を閉じる。著書に「全体主義の起原(全3卷)」(1951年/みすず書房、新版2017年)、「人間の条件」(1958年/2023年に講談社学術文庫から刊行予定)、「革命について」(1963年/ちくま学芸文庫、1995年)、「エルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告」(1963年/みすず書房、新版2017年)など。
牧野雅彦:
1955年生まれ。京都大学法学部卒業、名古屋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。名古屋大学法学部助手・教養学部助教授などを経て、現在、広島大学名誉教授。専門は、政治学、政治思想史。著書に「歴史主義の再建」(日本評論社2003年)、「マックス・ウェーバー入門」(平凡社新書、2006年)、「国家学の再建」(名古屋大学出版会、2008年)、「ロカルノ条約」(中公叢書、2012年)、「精読アレント『全体主義の起源』」(講談社選書メチエ、2015年)、「危機の政治学」(講談社選書メチエ、2018年)など。