吉田修一の「平成猿蟹合戦図」(2011年9月30日第1刷発行)を読みました。「悪人」は朝日新聞の連載小説、そして「横道世之介」は毎日新聞の連載小説、そして今回読んだ「平成猿蟹合戦図」は、「週刊朝日」に、2010年5月28日号から2011年4月29日号に連載されたものです。実はこの「平成猿蟹合戦図」、始めてアマゾンの中古で購入したものです。ぜひとも読みたかったので、ブックオフで探すよりも確実に早いアマゾンにしました。
アマゾンの「内容紹介」には、以下のようにあります。
歌舞伎町で働くバーテンダーが、ニッポンの未来を変えていく!? 新宿で起きた轢き逃げ事件。平凡な暮らしを踏みにじった者たちへの復讐が、すべての始まりだった。長崎から上京した子連れのホステス、事件現場を目撃するバーテン、冴えないホスト、政治家の秘書を志す女、世界的なチェロ奏者、韓国クラブのママ、無実の罪をかぶる元教員の娘、秋田県大館に一人住む老婆……一人ひとりの力は弱くても心優しき8人の主人公たちが、少しの勇気と信じる力で、この国の将来を決める“戦い”に挑んでゆく! 思いもよらぬ結末と共に爽快な読後感がやってくる、著者の新たな代表作。
夜の新宿・歌舞伎町、大通りから2筋ほど入った雑居ビルの間、エアコン室外機の熱風が吹き出している非常階段に、若い女が赤ん坊を抱いて座り込んでいます。女は長崎の五島福江島から始めて東京に出てきたばかり。夫が働いている福岡のでホストクラブへ会いに行ったが、そこで歌舞伎町に移ったと言われ、店の名前を教えてもらいます。歌舞伎町ではその店は3週間前に辞めたと言われます。連絡がつかなくなって既に1ヶ月。と、ややミステリー風に始まります。
轢いた瞬間の感触。フロントガラスの先に、通りを渡る酔った人の姿が見えた時の、握りしめていたハンドルの感触、踏み込んだアクセルの感触、がくんとシートが背中に張り付いた感触。そしてこれまでの思いが塊となって飛び出そうとでもするような全身の破裂感。全てが終わるまで、一切の音がなかった。と、車を運転していたものの述懐。
新宿署は容疑者を、自動車運転過失致死と道交法違反容疑で緊急逮捕した。逮捕容疑は、公道で乗用車を運転中、横断歩道を渡ろうとした男をはねて、そのまま逃げたとされる。男はすぐに病院に搬送されたが、約2時間後死亡した。容疑者が新宿署に出頭、緊急逮捕された。
歌舞伎町でバーテンをしている浜本純平は、ひき逃げ事件を目撃していた。だが捕まった犯人jは、目撃した人物とは別人だった。真犯人は世界的なチェロ奏者の湊圭司だが、彼の兄が身代わりになっていたのだ。知り合いのホスト・真島朋生と共に、湊を強請ろうと思いついた純平。このひき逃げ事件をきっかけに、少しずつ人が集まり、繋がっていきます。チェロ奏者の女性マネージャー・園夕子。韓国クラブのママとバーテンダー。湊の姪の美大生・岩渕友香。秋田に住む湊の祖母、等々。
小泉今日子(女優)が読売新聞(2011年10月31日)で、「復讐を希望に転じる」として書評を書いています。「出会うはずがない人々が出会い、哀しい復讐はいつの間にか未来への希望と転化し、集結した力は勇気と優しさでアクをばったばったと切り倒し、若き政治家をこの世に送り出す」と。そして「人を騙せる人間は自分のことを正しいと思える人なんです。逆に騙される方は、自分が本当に正しいのかといつも疑うことが出来る人間なんです」と、マネージャー女史の言葉を引用しています。
どうしても累計220万部を超えたという、吉田修一の最高傑作「悪人」と比較してしまいます。吉田修一の手法は、新聞社会面の隅の載っている小さな事件を丹念に拾い出して、物語を構成していきます。「平成猿蟹合戦図」は登場人物が数多く、やや散漫なきらいがあり、緊張感に欠けますが、しかし、終盤のまとめ方には、並々ならぬ技量がうかがえます。「サルカニ合戦」は意地悪なサルを、カニが仇討ちするというものでした。平成の「サルカニ合戦」は、読み終わってわかったのですが、やはり痛快な「仇討ち」話でした。
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