金原ひとみの「アタラクシア」(集英社:2019年5月30日第1刷発行)を読みました。神田神保町の古本まつりで購入した著者のサイン入り本です。アタラクシアとは平静な心の状態をいう古代ギリシャの言葉を指します。
「アタラクシア」は、第5回渡辺淳一文学賞を受賞しています。
女優の中江有里さんは、本作について「内臓を鷲掴みにして引き出され見せつけられるような感を覚えた。普段は皮膚の下にあるグロテスクな自分の中身に目をそむけたくとも、なぜか見ずにはいられない」(週刊新潮・書評)と評している。( https://www.bookbang.jp/review/article/571537 )
集英社のホームページには、以下のようにあります。
望んで結婚したのに、どうしてこんなに苦しいのだろう――。
最も幸せな瞬間を、夫とは別の男と過ごしている翻訳者の由依。
恋人の夫の存在を意識しながら、彼女と会い続けているシェフの瑛人。
浮気で帰らない夫に、文句ばかりの母親に、反抗的な息子に、限界まで苛立っているパティシエの英美。
妻に強く惹かれながら、何をしたら彼女が幸せになるのかずっと分からない作家の桂……。
「私はモラルから引き起こされる愛情なんて欲しくない」
「男はじたばた浮気するけど、女は息するように浮気するだろ」
「誰かに猛烈に愛されたい。殺されるくらい愛されたい」
ままならない結婚生活に救いを求めてもがく男女を、圧倒的な熱量で描き切る。芥川賞から15年。金原ひとみの新たなる代表作、誕生。
僕がよく読んでいる、同じころ発売された芥川賞作家、柴崎友香の「待ち遠しい」(毎日新聞出版)と比較してみると、「アタラクシア」に出てくる人たちがいかに極端に突出しているかがよくわかります。
大阪郊外で一人暮らしをする春子を中心に、亡くなった大家の娘で、春子が住む家の母屋に越してきたゆかり、ゆかりの甥の結婚相手で、裏の家に住む沙希、この三人の女性の関わりを描いています。
「私も結婚して15年くらい。一緒にいればいるほどわかりあえなさが見えてくる。わからないのだとあきらめてしまえば、スムーズにまわっていく。かといって、すごく共鳴する人との関係は互いに背負いすぎてつぶれがち」
小説でこれといった目標はない。書けるものを書く。「あきらめ」だと言う言葉は覚悟に聞こえる。「私はこれからもずっと、どうしようもない人たちを書いていくんだと思います。どうしようもない人にひかれるから」(「好書好日」:中村真理子)
金原ひとみ:
1983年東京生まれ。
2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。
04年、同作で第130回芥川賞を受賞。
ベストセラーとなり、各国で翻訳出版されている。
10年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。
12年、パリへ移住。
同年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。
18年、帰国。
20年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞を受賞。
21年『アンソーシャルディスタンス』で谷崎潤一郎賞を受賞。
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