2021年5月23日放送 NHK日曜美術館
「フランシス・ベーコンの秘密 バリー・ジュールコレクション」より
(以下、個人的な備忘録です)
人間の奥底に眠る恐れを、目覚めさせる画家がいます。
20世紀で最も重要な画家の一人、
フランシス・ベーコン(1909-1992)。
戦争の世紀、絶えることのない殺戮の狂気を、見たことのない頭の怪物に現わし、神なき時代、人は何によって生きるのか、宗教の意味を問いかけ、現代人の孤独を呻き声さえ失われた大きな口の漆黒に描きました。
「描きたいのは、恐怖より叫びだ」
「絵画が暴力的なのではない。生こそが暴力的なのだ」
「神経組織に直接病裂に作用する絵画だ」
「完成した絵だけが真実を語る」、そう信じたベーコンは、絵画から一切の物語を排除。絵が生まれる背景を決して明かしませんでした。
隠し続けたベーコンの秘密に迫る作品群が、初めて日本にやってきました。
「バリー・ジュール・コレクション」
死の直前までベーコンが秘かに手元に残したペイント跡の残る雑誌の切り抜きや写真。コレクションの中には、ベーコンが決して描かないと宣言し、この世に存在しないはずのドローイングもありました。これらの作品は、死の直前、友人バリー・ジュールに手渡されたものです。
「彼は私の車に、書き込みされた雑誌やデッサン、たくさんの本、何枚かの古い絵を積み込むように命じました」。
それらのアートワークをどうしたらいいか尋ねると、「バリー、君はどうすべきか知っていると言いました」。
なかにはベーコンがベーコンになる前、修業時代の若き日の油絵も含まれていました。処分して存在しないと言われていた作品です。
フランシス・ベーコン・エステート
しかし今回、ベーコンの著作権管理団体はいずれもベーコンの手によるものではない、との見解を示しました。
「バリー・ジュール・コレクションにベーコンの作品はない」。
今は無き偉大な画家フランシス・ベーコンが友人に託した問題のコレクション、その知られざる真実に迫ります。
フランシス・ベーコンの秘密。バリー・ジュール・コレクション
描いている時は誰にも会いたくない。たとえそれがモデルでもね。
アトリエに人を入れなかったベーコンの、作業風景を捉えた珍しい写真があります。
ロンドン、リース・ミューズ7番地、ベーコンのアトリエ兼終の棲家でした。許されて写真を撮ったのは、バリー・ジュール・コレクションの所有者、バリー・ジュールです。
ベーコンが手に持ち、何かを描き加えている写真。そこにはベーコンともう一人の人物が写っています。金髪で長身の男性こそ、バリージュール。
「面白いことに、私が初めてフランシス・ベーコンと会ったのは、実際に直接顔を合わせたわけではなかったんです。1978年の1月の初め、私が車を止め、ふと見上げると、私の住んでいる通りの端の壁に窓があったんです。そして誰かが霧のかかった窓ガラスに力強いストロークで人物や顔などを描いているのを見たんです」。
私は驚いて車の中に座り、誰かが窓ガラスに描くその形が現れては消えてゆくのをただ見ていました。しばらくすると、明かりが消えました。
私は車を降り、なんて不思議なことが起きているのかと思いました。
アトリエの近くに住んでいたジュールは、不思議な出会いから14年、こまごました身の回りの世話をする関係から、いつしか海外を共に旅する気の置けない友人に、ついにはアトリエの鍵を預かる。
ベーコンが描き上げた作品が気に入らない時は、代わりに絵を処分する関係になりました。そんなジュールに、ベーコンが死の10日前に贈ったのがバリー・ジュール・コレクションです。
以下、「その4」まで続きます。
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松濤美術館で「フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる」その1
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朝日新聞:2021年6月15日