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佐藤彰一の「禁欲のヨーロッパ 修道院の起源」を読んだ!

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佐藤彰一の「禁欲のヨーロッパ 修道院の起源」(中公新書:2014年2月25日発行)を読みました。どうしてこの本を読むことになったのか、今となってはまったく分かりません。たぶん「中公新書・今月の新刊」を見たので、すぐに購入したのかと思います。第8章まではすぐに読んだのですが、第9、10章が読まれないままに数ヶ月が経ってしまい、やっと全部を読み終わったというわけです。第一部は古代の禁欲心性と史的系譜、第二部はポスト・ローマの修道制で、それぞれ5章ずつ書かれています。新書とは思えないほどの、内容のある重い本です。


「はじめに」で、佐藤は次のように言う。

ひとが己の欲望を抑える。食べること、他者の肉体への欲望、さらに所有、金銭、名誉などへの欲望を断ち切り、克服すること。それはキリスト教、仏教、ヒンドゥー教、ユダヤ教など世界宗教の大國見られる修道実践の根源的な目標である。もろもろの悪徳の源であるとされる「我欲」を克服することで、自己の霊的救済と完徳を成就しようと願ったのである。こうした願望をもつ者たちが、共同で生活する場が修道院や仏教の僧院であった。本書は、西洋の修道制と修道院の最初期の歴史を、その心性面での背景から説き起こし、おおよそ6世紀までを時代的な枠組みにして論じている。したがって、西洋世界に修道制が本格的に普及し、定着する以前が本書の考察の対象になる。


修道制が出現する前段階での古典古代社会における、禁欲を含めた節制と肉体統御の思想に考察を広げ、人々の心性に分け入って禁欲修道制を受容する素地を明らかにする作業は欠かせない。考察は素地の土台を構成するさまざまな要素、結婚や女性、子どもの問題、生殖の問題にも及ぶのはことの性格上当然と言えよう。


本書における議論は、エジプトの砂漠で開始された共住修道制が西方に伝えられ、西方での普及の一大センターとなったカンヌ沖合の小島に創建されたレランス修道院と、都市近郊に生まれた初期の修道院で締めくくることにする。西洋の修道制が本格的に開始するのは7世紀以降のことであり、本書が主題としているのは、西洋修道制の前史ということになる。


これだけ詳細に調べ上げていることに、もともとこの分野に基礎知識のまったくない者に、異論を唱える術は毛頭ない。


古代ギリシャの医学的知識として、「ヒッポクラテス医学論集成」は、紀元前6世紀から紀元前後の時代までの、様々な時代の作品を集めたもの。これによって古典期ギリシャの医学と身体観を知ることができるという。もう一つはガレノスの「医学論」がある。2世紀の末頃、彼自身が書き記したもので、掛け値なしに膨大なもの。それらをもとに、古代の禁欲生活や養生のありようを、佐藤は詳細に語っている。


話は飛ぶが、たとえば「禁欲とヒステリー」の項、禁欲的生活が人の生理に引き起こす種々の障害は、ピッポクラテスの時代からギリシャで知られており、結婚適齢期の娘や独身の女性の禁欲がもたらす障害を、ギリシャの女性自らが「ヒステリー」と名付けていた、という。「人によっては、性交を抑制すると精神の弛緩や移り気といった状態になる者がいる。また別の者はわけもなく不機嫌になったり、怒りっぽくなったりする。こうした症状も性交を再開するとただちに解消する」という記述があったりする。


後半は、エジプトの修道制が、後の時代への影響という点で重要な流れを形づくっているとして、東方に生まれた修道制から、西ローマ世界、後の西欧の中心をなすガリア地方の伝播から考察が始まり、レランス修道院とローヌ修道制について詳細な検討がなされる。


本のカバー裏には、以下のようにあります。

多くの宗教で、性欲・金銭欲などの自らの欲求を断ち切り、克服することが求められる。キリスト教も同様だが、それではヨーロッパにおける「禁欲の思想」はいつ生まれ、どのように変化していったのか。身体を鍛錬する古代ギリシアから、法に縛られたローマ時代を経て、キリスト教の広がりとともに修道制が生まれ、修道院が誕生するまで――。千年に及ぶヨーロッパ古代の思想史を「禁欲」という視点から照らし出す意欲作。


目次

はじめに

第一部 古代の禁欲心性と史的系譜

 第1章 古代ギリシャとローマの養生法

 第2章 女性と子供の身体をめぐる支配連関

 第3章 抑圧の社会的帰結

 第4章 キリスト教的禁欲への道程

 第5章 社会的禁欲における女性の役割

第二部 ポスト・ローマの修道制

 第6章 東方修道制の西漸

 第7章 聖域と治癒

 第8章 聖マルティヌスによる宗教心性の転換

 第9章 レランス修道院とローヌ修道制

 第10章 ポスト・ローマの司法権力と修道院

おわりに

あとがき

文献案内

事項索引

人名索引


佐藤彰一:略歴
1945年山形県生まれ、1968年中央大学法学部卒、1976年早稲田大学大学院博士課程満期退学。名古屋大学教授等を経て、現在、同大学名誉教授。日本学士院会員。『修道院と農民――会計文書から見た中世形成期ロワール地方』により日本学士院賞受賞。専攻・西洋中世史、博士(文学)。
著書
『世界の歴史(10)西ヨーロッパ世界の形成』(共著、中央公論社 1997年/中公文庫 2008年)
『カール大帝――ヨーロッパの父』(世界史リブレット 人、山川出版社、2013年)
『中世世界とは何か ヨーロッパの中世(1)』(岩波書店、2008年)
『歴史書を読む――『歴史十書』のテクスト科学』(山川出版社、2004年)
『中世初期フランス地域史の研究』(岩波書店 2004年)
『ポスト・ローマ期フランク史の研究』(岩波書店、2000年)
『修道院と農民――会計文書から見た中世形成期ロワール地方』(名古屋大学出版会、1997年)
『地域からの世界史(13)西ヨーロッパ(上)』(共著、朝日新聞社、1992年)
ほか


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