扇情的なポーズで人々を魅了するのは、バルテュスの代表作のひとつ「夢見るテレーズ」(1938年)です。目を閉じて両腕を頭上で組み、膝を立てて下着を無防備にさらす少女。少女が無垢から目覚めつつある様を巧みに描きだしています。計算し尽くされた構図とともに、陰影とハイライトによって完璧に表現された少女の膝が注目されます。この少女を描いたポスターやチラシが、目に焼き付いて離れません。生涯にわたって少女を描いたバルテュスの真骨頂ともいえる作品です。
ピカソをして「20世紀最後の巨匠」と言わしめた画家バルテュス(本名バルタザール・クロソフスキー・ド・ローラ、1908-2001)。生前は1962年の初来日以降7度も来日したという、大の日本贔屓。今回の日本での展覧会は約20年ぶり。妻の節子夫人の肝いりで、没後初の大回顧展が実現。世界中から集う40点以上の油彩画に加えて、素描や愛用品など100点以上を、東京都美術館で観ることができます。
バルテュスはパリ生まれですが、両親はともにドイツ人。二度の世界大戦により、フランスやドイツ、スイスの各地を転々とするコスモポリタンでした。絵本「ミツ」(1921年刊行)は、バルテュス11歳の時に制作された作品。「ミツ」と名付けられた子猫がバルテュス少年と出会い、クリスマスの翌日に姿を消してしまうまでの物語で、あたかも木版画のような40枚の素描で表したものです。当時バルテュスの母の恋人であり、父親代わりでもあった詩人リルケに絶賛され、彼の序文を付して刊行されたものです。
「猫たちの王」(1935年)は、言うまでもなくバルテュスの自画像です。27歳のときに描かれたこの自画像は、バルテュスの誇り高いダンディな面影を伝えています。バルテュスは、生涯謎めいた動物である猫を愛し、多くの作品の中に猫を登場させています。この作品を、自ら「猫たちの王」と名付けています。「地中海の猫」(1949年)は、常連だったパリのシーフードレストランのために描かれました。ナイフとフォークを握りしめている猫はバルテュス自身でもあります。海から出た虹が魚に変身し、そのまま皿へと舞い降りてきます。この魚は伊勢海老と少女を経由して虹に戻ります。
「おやつの時間」(1940年)は、ドイツ軍に占領されたパリからフランス南東部に逃れた頃描かれたものです。もっとも色彩豊かな作品のひとつです。パンを突き通したナイフや少女の厳しい表情は、大戦による破局を暗示しているという。バルテュスは、1953年にブルゴーニュ地方シャシーの城館に移り住み、多くの風景画を描きます。「樹のある大きな風景(シャシーの農家の中庭)」(1960年)、画面上部の明るい部分と中庭の暗い部分は、樹の枝の斜線と中庭に差し込む光によって結びつけられています。画面左下の人物はバルテュス自身でしょうか。
1962年に初来日してから、バルテュスは日本的な作品を多く制作するようになります。「トランプ遊びをする人々」(1966年)は、歌舞伎から想を得た作品で、人物はまるで“見え”をしているかのようです。絵肌は初期ルネサンスのフレスコ画のようで、ヨーロッパ絵画の伝統を引き継いでいます。「朱色の机と日本の女」(1967-76年)のモデルは、1967年に結婚した節子夫人です。彼女の中に日本の美を見出したバルテュスは、何度も描きました。逆遠近法など、浮世絵の影響が強く見られるという。この作品が完成した翌年、バルテュスはスイスに転居し、さらに四半世紀を画業に捧げます。
僕が最も好きな作品は、シャシーの城館でともに暮らしていたというモデルを描いた「白い部屋着の少女」(1955年)です。また、興味深く思ったのは、画家のバルテュスが、フランス文化大臣アンドレ/マルローの要請で、ローマのメディチ家に住んで執務をこなしたということです。また今回の展覧会で、グラン・シャレに残るバルテュスのアトリエが復元展示されていて、これも興味深いことのひとつです。
展覧会の構成は、以下の通りです。
第1章 初期
第2章 バルテュスの神秘
第3章 シャシー――田舎の日々
第4章 ローマとロシニエール
素描 D4-D17 エミリー・ブロンテ「嵐が丘」のための14枚の挿絵
第1章 初期
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第2章 バルテュスの神秘
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第3章 シャシー――田舎の日々
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第4章 ローマとロシニエール
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素描
「バルテュス展」
ピカソをして「20世紀最後の巨匠」と言わしめた画家バルテュス(本名バルタザール・クロソフスキー・ド・ローラ、1908-2001)。 時が止まったように静謐な風景画や、バルテュス曰く「この上なく完璧な美の象徴」である少女のいる室内画など、どこか神秘的で緊張感に満ちたバルテュスの絵画は、多くの人々に愛され続けています。
本展は、バルテュスの初期から晩年までの作品を通して、画家の創造の軌跡をたどる大回顧展です。 ポンピドゥー・センターやメトロポリタン美術館のコレクション、また個人蔵の作品など、世界各国から集めた40点以上の油彩画に加えて、素描や愛用品など、あわせて約100点を紹介するとともに、晩年を過ごしたスイスの「グラン・シャレ」と呼ばれる住居に残るアトリエを初めて展覧会場で再現し、孤高の画家バルテュスの芸術が生み出された背景を探ります。
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