ブリヂストン美術館で「描かれたチャイナドレス―藤島武二から梅原龍三郎まで」を観てきました。観に行ったのは5月8日でした。大正から昭和初期に、洋画家たちが中国服を描いた作品の展覧会です。会場には実物の中国服も展示されています。20世紀初めに清朝が崩壊すると、自由なデザインの「チャイナドレス」が登場します。華麗な中国文化の象徴としてチャイナドレスは、ヨーロッパで油絵を学んだ日本人洋画家たちを魅了します。
青いチャイナドレスが印象的な安井曾太郎の「金蓉」(後期展示)、モデルは小田切峰子という日本人女性、題名の「金蓉」は彼女の愛称だという。安井は1907年に渡仏し、アカデミー・ジュリアンでジャン=ポール・ローランスに師事、セザンヌやピサロの影響も受けたが、14年に帰国して以後、独自の写実を確立しました。
日本の洋画で始めて描かれたという中国服の女性は、1915年、藤島武二の「匂い」だったという。この絵をきっかけに、洋画家たちの間に中国趣味が広がりました。今回の展覧会には、藤島の作品が6点、出ています。藤島武二のルネサンスの肖像画を思わせる横顔像3点、「東洋振り」「女の横顔」「鉸剪眉」が、今回の展覧会の目玉でしょう。それぞれの作品に掲げてあった「解説」を、以下に載せておきます。
「東洋振り」:
藤島武二による、最初の中国服女性の横顔像です。藤島はヨーロッパ留学で見たイタリア・ルネサンスの横顔の肖像画を忘れませんでした。帰国後14年を経て、その構図を思い起こし、日本人モデルに中国服を着せて横顔を描きます。藤島は東洋と西洋に相通じるものがあると考えていました。
「女の横顔」:
モデルは竹久夢二から「お葉」と名付けられ愛された佐々木カ子ヨ(かねよ)という女性だと考えられています。藤島武二は「日本人には美しい横顔が少ない」と嘆いています。そんな藤島を満足させる数少ないモデルの一人でした。お葉を描いた代表作に「芳蕙(ほうけい)」1926年・個人蔵が知られています。
「鉸剪眉」:
藤島が1924年から3年間、立て続けに描いた中国服女性の横顔像の最後を飾るのが「鉸剪眉(こうせんび)」のシリーズです。「鉸剪眉」とは藤島が見た中国人形につけられていた言葉だそうで、「何のことか知らない」と藤島は語っています。おそらく漢字の並びや響きが気に入ったのでしょう。髪飾りも面白いものです。
児島虎次郎は、中国を4回も訪れました。「西湖の画舫」は、屋形船で宴を催す人々を描いたものです。今回の展覧会には児島の作品が4点、出されています。藤島に次ぐ多さです。藤島や児島に限らず、ヨーロッパで油絵を学び、日本へ帰って、日本の文化が抱く中国文化へのあこがれが、中国という題材にめぐりあったということになります。
6月12日には運良く、「描かれたチャイナドレス」展ブロガーナイトに参加させていただくことになりました。いわゆる「ブロガー内覧会」で、①企画担当者によるギャラリートーク、②参加者のみの夜間特別鑑賞会、③「描かれたチャイナドレス」展のみ写真撮影可、等々の特典があります。ブロガーナイトに参加してから、「描かれたチャイナドレス」展について、また書くつもりでいます。
「描かれたチャイナドレス―藤島武二から梅原龍三郎まで」
中国は、古代から近世にいたるまで、つねに日本をリードしてきたアジアの先進国でした。その日本は、明治維新以降、ヨーロッパに目を向け始めます。しかしそれでもなお、日本人の心から中国への憧憬や愛着をぬぐい去ることはできませんでした。大正時代、日本で中国趣味がわきおこります。芥川龍之介や谷崎潤一郎らが中国をテーマにした小説を次々に発表します。同じように、美術でも中国ブームがあらわれました。油彩画の世界では、藤島武二が中国服を着た女性像を描き始めます。ツーリズムの発達によって渡航しやすくなったことから、児島虎次郎や三岸好太郎、藤田嗣治、梅原龍三郎らは、中国を実際に訪れて題材を見つけました。一方、興味深いことに、藤島や岸田劉生、安井曾太郎らは、日本にいて、日本女性に中国服を着せて描きます。そこには、ヨーロッパから学んだ油彩技法を用いて、日本人が描くべき題材を求め、東西文化の融合をめざした到達点の一つを見ることができます。このテーマ展示は、1910年代から40年代にかけて日本人洋画家が描いた中国服の女性像約30点で構成されます。成熟していく日本洋画の展開をお楽しみください。
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