府中市美術館で「春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀」(前期)を観てきました。観に行ったのは4月11日、もう1ヶ月も前のことです。この展覧会は後期も、もう、終わっていますが・・・。フランスへ行ったことなどからブログに書くのが遅くなってしまいました。
オレンジ色のポスターやチラシ、そして図録まで、府中市美術館の江戸シリーズのテーマカラーのようです。それにしても、今年から急に美術館の図録が高くなって、買えませんよ、高くて。それと「江戸絵画の19世紀」、これは僕だけの印象かも知れませんが、今までの江戸シリーズに比べて、やや質の低下があるように思われました。どこがどうというわけではなく、全体的な印象ですが・・・。数でいえば、浮世絵が数多く入っていることで、そのような印象を受けたのかも知れません。時代的な区分で選ばれたようですが、できれば浮世絵は浮世絵だけで、展示してもらいたいものです。とは、一素人の考えですが・・・。
今は21世紀、19世紀はおよそ200年前の時代です。3世紀におよぶ江戸時代、その最後と成るのが19世紀です。それより前の18世紀には、応挙、若冲、蘆雪、簫白らが活躍しました。奔放で画期的な創造の時代として知られています。では、続く19世紀は、どんな時代だったのでしょうか?
出品目録に、作品が制作された時期を3期に分けて、
以下のように載せてありました。
1期 寛政(1789~1801)
享和(1801~04)
文化(1804~18)
文政(1818~30)
2期 天保(1830~44)
弘化(1844~48)
3期 嘉永(1848~54)
安政(1854~60)
万延(1860~61)
文久(1861~64)
元治(1864~65)
慶応(1865~68)
明治(1868~1912)
時代の大きな変わり目にいた人として、ここでは「新訂万国全図」を描いた亜欧堂田善(寛延元年1748~文政5年1822)を取り上げます。言うまでもなく「万国全図」は当時の最先端の知識と技術で「世界地図」を描いたものです。亜欧堂田善は、どのような人だったのか、その略歴を、以下に載せておきます。
陸奥国白川藩須賀川の、農具商の子として生まれる。絵は、始め伊勢の月僊に学んだとされる。兄が始めた染物屋を手伝っていたが、寛政6年(1794)白河藩主松平定信に起用され、貞信のお抱え絵師であった谷文晁の門に入る。定信周囲の蘭学者たちの協力もあり、銅版画技術、また西洋画法を習得する。世界地図や解剖図などの実用銅版画をはじめ、船載画をもとにした異国の風物、江戸や須賀川の風景を、多くの銅版画作品として制作した。その精緻で優れた技術には目を見張るものがある。また、在来の絵の具を用いた作品も多く手がけた。油彩画の数は少ないが、江戸の風景を美しく濃厚な色彩と画面のすみずみにまで行き渡った遠近法により、活き活きと描きだした。
もう一つの時代の変わり目として、亜欧像田善の「墨堤観桜図」が上げられます。その題名からすれば江戸時代の風俗を描いているはずだが、肝心の桜ははるか奥にたたずんでいるだけです。画面には中央に太い幹の松の木です。この絵は手前で幅の広い堤が奥に行くほど狭まっていき、左奥へと連なっています。まさに透視図法を駆使した作品です。油彩画ではあるが、なぜか西洋画には見えません。この松はまさに日本画そのものです。川と堤と並木が消えていく地平線に小さく筑波山が描かれています。手前の人物二人は、月僊と田善とみられます。印は「みちのくすかかは」と「なかたせんきち」とあります。田畑や樹木の表現は文晁譲りとされています。(朝日新聞:「美の履歴書351」による)
以下、出品作前後期168点のうち、その一部の画像を載せておきます。
「春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀」
近年よく使われる、「ものづくり」という言葉があります。 機械がものを作る現代にあって、人が手ずから一つの品物を作ることには、特別な意味が生まれます。そこに込められた工夫や試行錯誤、作り上げられたものの尊さに思いを寄せることのできる言葉かもしれません。ものを作るという側面からみると、江戸後期、19世紀は、手仕事としての技術と創意工夫が極限に達した時代と評されています。鎖国下にあって、古くからの伝統と限られた外国からの情報をもとに、自ら考え、独創的で驚くべき高度な技を切り開いたのです。望遠鏡や精巧なからくり人形、また、からくり儀右衛門ぎえもんこと田中久重ひさしげの驚異的で創造性あふれる機器が生まれたのが、この時代でした。一枚の絵を描くことも、一種の「ものづくり」でしょう。紙や絹の上に絵の具を膠にかわや水で定着、浸透させて、ものの形を表したり、版画ならば、画家のイメージを形にするために、複数の異なる色の版を設計し、重ねて刷っていきます。そうして、見た者の心を動かすための「もの」が作り上げられるのです。そんな目で19世紀の江戸絵画を眺めると、作品は俄然、きらきらとした輝きを放ってきます。古代から蓄積されてきたあらゆる技巧を駆使して、画面の隅々まで念入りに作り込まれた絵の数々、また、浮世絵木版画の精密さ、こだわりにも、凄まじいものがあります。ただ勢いや偶然の妙に任せるのではない、綿密で研ぎ澄まされた構図は、見ごたえ充分です。あるいは、北斎ほくさいや広重ひろしげの風景画がそうであるように、西洋の遠近法や陰影法、油絵や銅版画といった舶来技術は、本来の使い方から離れ、とてつもなく独創的に展開しています。技を操り、見たことのない絵画世界を作り出すこの時代の作り手たちの営みは、まさに「美のものづくり」です。そして、そんな技術探求の時代だからか、心の中の趣を大切に、それを絵筆に託すことも盛んでした。木米もくべいら文人画家たちの、世におもねることのない作品の数々は、技術の極みとは対照的な、心の表現の極みと言えるでしょう。「心のままに描く」楽しさ、深さが、私たちをいざないます。かつて文化史の上では、この時代の美術は、時代の終末ということに重ね合わせて、退廃的と説明されることがありました。しかし、輝くような創意にあふれた様相を見れば見るほど、そんな説明が果たして妥当だったのか、考えさせられます。時代が明治に変わると、日本の美術は新たな局面を迎えます。19世紀の江戸絵画は、折々に中国や朝鮮の影響を受けながら独自の創造を続けてきた日本の美術の、ある意味、最終形とみることができるのかもしれません。
府中市美術館
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