NTTインターコミュニケーション・センターで「磯崎新 都市ソラリス」を観てきました。チラシが驚きます。A4版縦3枚続きです。ほとんど字ばかりで、すぐには何も伝わりません。時期が時期だけに、この展覧会がいま開催されるのは、どういう意味があるんだろうと考えてしまいました。会場には、鄭東新区の都市計画の巨大な模型がおかれています。黒川紀章のプランを磯崎新が2007年に引き継ぎ、さらに拡大した都市計画で実際に建設されるという。展覧会の主たる目的は、鄭東新区を舞台に,磯崎新およびゲストとのディスカッションなどを受け、状況や情報をもとに都市のモデルを考えるワークショップを行うということのようです。
2013年、岩波書店より過去50年間に渡り書いてきた文章を編集した『磯崎新建築論集』全8巻(岩波書店)が刊行されています。建築家・磯崎新の思想のエッセンスをテーマごと、時間順にたどれるよう構成してあるようです。建築家仲間でこの本について熱い話題になっていますが、僕はまだ手に取っていません。
今回の都市計画について僕は特に意見があるわけではないので、以下、展覧会の趣旨についてはNTTインターコミュニケーション・センターのホームページより転載しておきます。磯崎新は「都市ソラリス」展について、以下のように言います。
わが宇宙船地球号は,その表層をうずめる都市環境に狂いが生じて,航行不能に陥りつつあります.新しい操縦マニュアルを必要としています.20年昔,グローバリゼーションの大津波がおそい,全球が領土化(テリトリアリゼーション)され,都市化したためです.津波通過の跡には澱(おり)がたまり,これが触媒となり,あらたに〈しま〉が出現するだろうと予測され,かつて大航海の果てに発見されたといわれる「ユートピア」(トーマス・モア,1516)を手がかりに,「海市——もうひとつのユートピア」展(ICCオープニング企画展,1997)が立ち上げられ,プロトタイプ,シグネチャーズ,ヴィジターズ,インターネットの〈しまじま〉を生成させてみましたが,蜃気楼のごとくに消え去り,蘇東坡の詩『登州海市』にちなんで「海市」と呼ばれました.〈しま〉に収容される住民は「海市」の作業のなかでは「リヴァイアサン」(トーマス・ホッブズ)に統治される〈ビオス〉(ミシェル・フーコー)として扱われていました.しかしモナドとしての〈ビオス〉には,「意識」,そして「知」がそなわっています.そこで地表の都市は,渾沌(『荘子』応帝王篇)=カオス(複雑系)状態をみせるのです.〈しまじま〉がギャラクシーに成長しつつある現在,『惑星ソラリス』(スタニスワフ・レム原作,アンドレイ・タルコフスキー監督,1972)を参照しながら,集合知,免疫性(イムニタス)などを都市論として討議する場をつくりだしたいと考えます.今回もそのあげくに展覧会の正式呼称がきまるでしょう.
「磯崎新 都市ソラリス」展示風景
(「artscape」2013年12月15日号より)
展覧会の構成は、以下の通りです。
(1)都市デザイナー磯崎新 1960/2020
今回の展覧会コンセプトに至る展開を概観するテキストや資料を展示します.
《空中都市》1960-63年
《孵化過程》1962年
《日本万国博覧会 お祭り広場》1970年
《コンピューター・エイデッド・シティ》1972年
《パラディアム》1985年
《海市計画》1994-95年
「海市——もうひとつのユートピア」展 1997年
ほか
(2)「鄭東新区龍湖地区副CBD」1/200模型と、その模型を舞台にしたインスタレーション
2003年に始まった中国河南省鄭州市鄭東新区の都市計画は,黒川紀章のプランを磯崎新が2007年に引き継ぎ,現在も進行中です.その北部に位置する人工湖・龍湖の中に建設される副CBDは,伝統的な「二十四節気」に基づいた暦や時間がデザインに組み入れられています.さらに「水上慶典広場」と名づけられた中央の湖は,中国の伝統行事や季節に合わせて,水上イヴェントが開催されるよう構想されています.
本展会場では,「水上慶典広場」を舞台にしたイヴェントを,メディア・アーティストや建築家によるインスタレーションとして実現します.
(3)鄭東新区 都市ワークショップ
鄭東新区を舞台に,磯崎新およびゲストとのディスカッションなどを受け,状況や情報をもとに都市のモデルを考えるワークショップを行ないます.建築家やアーティストがプランを出しあい,それらのアイデアから,会期中さまざまにその様相を変えていきます.トーク・イヴェントやパフォーマンスなども行なわれる予定です.
磯崎新:略歴
磯崎新 建築家.1931年大分市生まれ.1954年東京大学工学部建築学科卒業.丹下健三に師事し,同大学院博士課程修了.1963年磯崎新アトリエを設立.以来,国際的建築家として活躍.世界各地で建築展,美術展を開催し,また多くの国際的なコンペの審査委員,シンポジウムの議長などを務める.カリフォルニア大学,ハーヴァード大学,イェール大学,コロンビア大学などで客員教授を歴任.建築のみならず,思想,美術,デザイン,文化論,批評など多岐にわたる領域で活躍.代表作に,《大分県立図書館》(現アートプラザ,1966),《日本万国博覧会お祭り広場》(1970),《群馬県立近代美術館》(1974),《つくばセンタービル》(1983),《ロサンゼルス現代美術館》(MOCA,1988),《バルセロナ市オリンピック・スポーツホール》(1990),《チーム・ディズニー・ビルディング》(1991),《クラクフ日本美術技術センター》(1994),《奈義町現代美術館》(1994),《ラ・コルーニャ人間科学館》(1995),《京都コンサートホール》(1995),《静岡県コンベンションアーツセンター・グランシップ》(1999),《パラスポーツ・オリンピコ(トリノ・オリンピック アイスホッケー会場)》(2005),《北京中央美術学院美術館》(2008),《証大ヒマラヤセンター》(2010),《カタール国立コンベンションセンター》(2011)など多数. 近年のプロジェクトは,中国の鄭州市鄭東新区都市計画,可動式コンサート・ホールARK NOVAなど.2013年,岩波書店より過去50年間に渡り書いてきた文章を編集した『磯崎新建築論集』を刊行.
「磯崎新 都市ソラリス」
「磯崎新 都市ソラリス*」展は,ICCオープニング企画展「海市——もうひとつのユートピア」(1997)を監修した建築家磯崎新を再び迎えて,これまでの都市デザイン,アーキテクチャ論を超える新たな都市像を考える場として企画されました.会場では,1960年代から現在に至るまで磯崎が手がけてきた都市計画プロジェクトの変遷をたどりながら,複数の参加者の介入によって変化していくワーク・イン・プログレスの展示が展開されます.この舞台となるのは,2012年の展示「Run after Deer!(中原逐鹿)」(パラッツォ・ベンボ,ヴェネツィア建築ビエンナーレ)でも取り上げられた,現在中国で進行中の磯崎の最新のプロジェクト「鄭州都市計画」です.会期中は,祝祭空間としての都市をメディア・アーティストの提案によって実現するなど,ワークショップやディスカッションなどを通じて,高度情報化時代における都市像を模索しつつ,動的な「都市形成装置」としての都市を試みます.
*ソラリス(Solaris):スタニスワフ・レムによって宇宙開発時代さなかの1961年に発表されたSF小説.日本でも1964年に邦訳『ソラリスの陽のもとに』(飯田規和訳,早川書房)が,さらに2004年に新訳『ソラリス』(沼野充義訳,国書刊行会)が刊行されている.また,1972年に映画化された『惑星ソラリス』(アンドレイ・タルコフスキー監督)は,SF映画の名作として現在まで高い評価を得ている.
16年目のICCと磯崎新展──磯崎新「海市」から「都市ソラリス」へ
畠中実(NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]主任学芸員)2013年12月15日号
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「磯崎新建築論集」全8巻
半世紀にわたり建築界をリードし,現在なお国際的な場で活躍し続ける磯崎新.その巨大な存在感はどこから来るのか.建築家であると同時に,芸術家,批評家,思想家として活躍する磯崎新の,思想のエッセンスを分かりやすい形で凝縮する集大成的著作論集.次代を担う中堅気鋭の建築家,建築史家の協力を得て,常に新鮮な問題提起で挑発し続ける著者の思想の核心と魅力の秘密を浮き彫りにする.十数編の意欲的書下ろし論考と著者自身による各巻解題を収録.未来に継承さるべき,わが国建築界の思想的財産.
第1巻 散種されたモダニズム (横手義洋編)
第2巻 記号の海に浮かぶ〈しま〉 (松田達編)
第3巻 手法論の射程 (日埜直彦編)
第4巻 〈建築〉という基体 (五十嵐太郎編)
第5巻 「わ」の所在 (中谷礼仁編)
第6巻 ユートピアはどこへ (藤村龍至編)
第7巻 建築のキュレーション (南後由和編)