山本兼一原作、田中光敏監督の「利休にたずねよ」を観てきました。チラシの裏に、「美の本質に迫る極上のミステリーにして、究極のラブストーリー。全く新しい利休が、ここに誕生する。」とあり、そして以下のようにありました。
利休の茶は、若き日の恋から始まった――。原作は、確かな時代考証に基づく斬新な切り口で、希代の茶人の出発点を浮き彫りにした。山本兼一の「利休にたずねよ」。もはや歴史小説の枠を超え、第140回直木賞を受賞した傑作が今、長編映画として新たな生命を宿した。海外では、日本の美を体現する映画として大きな注目を集め、第37回モントリオール世界映画祭、最優秀芸術貢献賞を受賞した。・・・“人間・利休”が遺した謎と、生涯にわたり秘め続けた恋。今まで全く見たことのない斬新な利休像が誕生した。
以前、山本兼一の「利休にたずねよ」を読んだとき、「もっともこの『利休にたずねよ』という本は、エピソード満載の本なのですが・・・」として、以下のように書きました。
実はもう一つこの本の特徴、「緑釉の香合」が軸として最初から最後まで一本通っています。「掌にすっぽりおさまる緑釉も平たい壺、胴がやや上目に張っている。香合につかっているが、姿は瀟洒で、口が小さい」、「緑釉の色味が、唐三彩の緑よりはるかに鮮烈である。おそらく、何百年も昔の高麗の焼き物であろう。あの女の形見である」。持ち主は与四郎の家にかくまわれていた高麗から無理に連れられてきた美しい若い女。若い与四郎は女と共に高麗へ逃げようとします。追っ手が迫り、与四郎は女とおのが末期の茶を点てます。毒入りの茶を・・・。出奔騒動の2日後、与四郎は南宋寺へ行って得度し、宗易という法号をもらいます。女を回向するために・・・。緑釉の小壺には、与四郎が食いちぎった女の小指の骨と爪が入っています。その緑釉の壺を秀吉が欲しがっていました。
全体に逆に遡っていくのですが、最終章の「夢のあとさき」だけは、利休切腹の日となっています。妻の宗恩が一畳半の茶室で利休が血の海に突っ伏しているのを目撃します。床に置いてある緑釉の香合が置いてあります。宗恩は香合を手に取り、検視の侍に「見届けの御役目、ごくろうさまでございました」と両手をついて頭を下げます。なぜ夫は腹を切らなければならなかったのか。がしかし、宗恩にははっきりと判っていることがたったひとつあります。「くちおしい」。廊下に出ると宗恩は手を高く上げ握っていた緑釉の香合を勢いよく投げつけます。香合は石灯籠にあたり、音を立てて粉々に砕けます。
山本兼一のストーリーは完璧ですが、映画は「キャスト」が命です。チラシの裏には、以下のようにあります。「主人公・千利休を演じるのは市川海老蔵。利休を見守り、寄り添う妻・宗恩には中谷美紀。利休に惚れ込む戦国の覇者・織田信長に伊勢谷友介。利休への愛憎をあらわにする天下人・豊臣秀吉に大森南朋」。市川海老蔵は言うに及ばず、僕が注目したのは秀吉役の大森南朋、権力者でありながらなぜかおどおどした不安を抱える天下人、しかも利休に対してはその時々によって対応が変わるという難しい役を見事に演じていました。大森については、赤坂真理原作の映画「ヴァイブレータ」に、寺島しのぶと出たときからずっと注目していました。
講談社野間記念館には横山大観の屏風「千与四郎」という作品があります。言うまでもなく「千与四郎」は利休の幼名です。道陳の紹介で茶人武野紹鷗の許へ入門させた、その時に紹鷗は利休を座敷へ上げず、直に庭の掃除を命じて、彼の奇才を試みたところ、利休は掃き清めた庭へ樹を揺すって桜紅葉を落とし一味の閑寂さを添えたので紹鷗が大いに感じたという逸話があります。利休にまつわる逸話はたくさんありますが、映画では利休が節のある竹を使って茶杓を作るという逸話を使っています。利休の師・武野紹鷗を、先日亡くなられた市川海老蔵の父親である市川團十郎が演じていました。
以下、とりあえず「シネマトゥデイ」より引用しておきます。
チェック:直木賞に輝いた山本兼一の小説を実写化した歴史ドラマ。戦国時代から安土桃山時代に実在した茶人・千利休の若い頃の恋、それを経て培った美への情熱と執着を壮大に映し出す。『一命』の市川海老蔵が千利休にふんし、10代から70代間際までの変遷を見事に体現。さらに、利休の妻・宗恩に中谷美紀、豊臣秀吉に大森南朋、織田信長に伊勢谷友介と、実力派が集結。三井寺、大徳寺、神護寺、彦根城など、国宝級の建造物で行われたロケ映像も見ものだ。
ストーリー:3,000もの兵に取り囲まれ、雨嵐の雷鳴が辺り一帯に響き渡る中、豊臣秀吉(大森南朋)の命によって切腹しようとする茶人・千利休(市川海老蔵)の姿があった。ついに覚悟を決めて刃を腹に突き立てようとする彼に、利休夫人の宗恩(中谷美紀)は「自分以外の思い人がいたのではないか?」という、かねてから夫に抱いていた疑念をぶつける。その言葉を受けた利休は、10代から今日に至るまでの波瀾(はらん)万丈な道のりを思い出していく。
2008年11月7日第1刷発行
著者:山本兼一
発行所:PHP研究所
女のものと思われる緑釉の香合を肌身離さず持つ男・千利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、天下一の茶頭に昇り詰めていく。刀の抜き身のごとき鋭さを持つ利休は、秀吉の参謀としても、その力を如何なく発揮し、秀吉の天下取りを後押し。しかしその鋭さゆえに秀吉に疎まれ、理不尽な罪状を突きつけられて切腹を命ぜられる。利休の研ぎ澄まされた感性、艶やかで気迫に満ちた人生を生み出したものとは何だったのか。また、利休の「茶の道」を異界へと導いた、若き日の恋とは…。「侘び茶」を完成させ、「茶聖」と崇められている千利休。その伝説のベールを、思いがけない手法で剥がしていく長編歴史小説。第140回直木賞受賞作。
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