興梠一郎の「中国 目覚めた民衆」(NHK出版新書:2013年1月10日第1刷発行)を読みました。この本を知ったのはラジオでした。朝、TBSラジオの「森本毅郎・スタンバイ」を聞いていたら、コメンテーターの伊藤洋一がこの本を紹介していました。伊藤の肩書きは、三井住友トラスト基礎研究所主席研究員です。実は「中国 目覚めた民衆」ともう一冊、柯隆の「中国が普通の大国になる日」(実業之日本社:2012年10月20日初版発行)を紹介していたのですが、購入はしましたがまだ読んでいません。
僕はこのような分野の本は、ほとんど読まないのが通例なのですが、たまたま聞いたラジオで解説していた伊藤の説得力のあるコメントと紹介で、ついつい購入してしまいました。著者の興梠(こうろぎ)一郎は、1959年、大分県生まれ。神田外語大学教授。専攻は現代中国論。と略歴にあります。九州大学経済学部卒業後、三菱商事中国チームを経て、カリフォルニア大学バークレー校大学院修士課程修了。東京外国語大学大学院修士課程修了。外務省の専門調査員・分析院を歴任。著書に、「現代中国」「中国激流」(ともに岩波新書)、「中国」(文藝春秋)など。
本の帯が、強烈で印象的です。「反日デモの真相から危機の共産党まで」、外務省の分析員をつとめた中国通が描く巨大国家の素顔、とあります。裏表紙に続けて、習近平の中国は、変わることができるのか? いま一番知りたい中国の最新事情を収載!と、読みたくなるようなキャッチーなフレーズが続きます。目次を見ても、キャプションのつけ方が非常に上手い。
本のカバー裏には、以下のようにあります。
習近平体制が指導した中国は、これからどこへ向かうのか?反日デモやネット世論の検討から、“超”格差社会が限界に達し、覚醒した民衆が政府批判を強めている様を活写する。高度成長にも陰りが見え、共産党は危機的状況にある。日本はこの巨大化した隣国とどう向き合い、尖閣問題はいかに解決すべきなのか。―新指導部の分析や日中関係への提言も盛り込んだ意欲作!
2012年11月、習近平総書記をトップとする中国共産党の新指導部が誕生しました。習近兵隊生で中国はどうなるのか。経済成長は持続できるのか、中国は民主化するのか。日中関係はどうなるのか、等々。中国は、1966年から約10年間続いた「文化大革命」の混乱に終止符を打つと、「改革開放政策」のもと、1978年から今日まで、奇跡的な経済成長を成し遂げ、いまや中国は、日本を抜いて世界第2位の経済大国になりました。誰もが13億の人口を抱える中国に関心を持たずにはいられません。がしかし、昨今の尖閣問題をめぐる日中対立に端を発した中国で起きた反日デモの衝撃からまだ立ち直れてはいません。
著者はめまぐるしく変化する中国を理解するには、新しいアプローチが必要だ、という。目覚めた民衆が、ネットという武器を使いこなし、バーチャルな空間で横につながり、あっという間に共産党を包囲してしまういまとなっては、崎乃固定したイメージを持ち、それに中国を当てはめようとしても、ことごとく裏切られ、これまでの方法論はまったく通用しなくなっています。著者は言う。中国はもはや共産党の中国ではない。表向きは鉄壁に見える一党独裁体制だが、5億人を超えるネットユーザーが生み出す世論のうねりが政権を包囲し、その支配を根底から揺るがしつつある。
これからの中国を読み解くカギは、目覚めた民衆の「民意」である、といいます。「中国 目覚めた民衆」は、現地の生情報をフルに使い、中国をリアルに描き出すべく、反日デモ、中国経済、ネット世論、党大会、習近平体制、尖閣問題、日中関係など最新の話題も数多く取り上げられています。報道されなかった裏情報も数多く盛り込まれています。著者の中国通からか一般の人にもわかりやすく書かれており、しかも平易な文章で読みやすい。
目次
第1章 反日デモの真相
―“超”格差社会のひずみ
第2章 高度成長のアキレス腱
―深刻な土地問題
第3章 目覚めた民衆
―ネット世論の台頭
第4章 揺らぐ一党独裁
―習近平体制のゆくえ
第5章 日中関係の改善に向けて
―戦略的互恵関係の構築