辛島昇・著、大村次郷・写真「カラー版 インド・カレー紀行」(岩波ジュニア新書:2009年6月19日第1刷発行)を読みました。3年半ほど前に刊行された本です。東京新聞(夕刊) 2009年9月1日、北海道新聞(朝刊) 2009年7月26日、朝日新聞(朝刊) 2009年7月12日などに紹介されました。「ジュニア新書」と侮るなかれ、カレーの成立過程を地方の歴史と絡ませて書いた、そしてカレーをインド文化の一つとして取り上げている優れた「文化論」なのです。著者のインド滞在の経験を踏まえた、肩の凝らない読み物でもあります。
「内容紹介」は、この本の編集者である森光実さんが岩波ジュニア新書の書いています。これほどまでに編集者が入れ込んでいる本は珍しいと言えます。よほど思い入れがあるのでしょう。その熱気がひしひしと伝わってきます。
インド史の第一人者が,カレーについてこんなに詳しいとは! ほんとうに驚きました.でも,それもそのはずでした.50年前のはじめての留学から現在までに,3年近い滞在2度を含めて,インド滞在期間が8年の長きに達するというのですから.本書をつくりながら,ぼくは東京のインド・カレー店をあちこち食べ歩きました.そこで話をうかがいながら,辛島先生の名前を出すと,「あの辛島先生ですか.本,早く読みたいですね」という反応がしばしば返ってきました.有名なマンガ『美味しんぼ』に「カレーの本を書いたインド史の辛島先生」として登場していたのです.
そして,できた本.担当したからでもありますが,圧巻です.陸のシルクロードと海のシルクロードがかかわり,南の文化と北の文化が融合してできあがったのが,インド・カレーなのです.しかも,各地には融合する前のカレーが残っていて,それらがその土地の条件を見事に反映したものなのですから.コショウがつる植物であり,高い木にまとわりつき,ハシゴをかけて実をとる.チャパーティーやナーンはローティーの一種で,仲間にプーリーやパロータなどいろんなものがある.そんなことも,はじめて知りました.いえ,はじめて知ったことばかりといえるかもしれません.
何度通ったかわからないくらいインドを訪れている写真家の大村さんが撮った,各地のカレー料理,その材料や製作過程の写真もバラエティに富みます.料理をつくってみたいと思うみなさんのために,多くのレシピも入れています.カレー好き・インド好きの人はもちろん,関心のなかった人も,本書を開くとインド・カレーのとりこになるだろうと,ぼくは楽しい想像をしています.
著者紹介
辛島 昇(からしま・のぼる)
東京大学・大正大学名誉教授.専門は南インド史.1933年,東京生まれ.東京大学・マドラス大学大学院に学ぶ.著書に『インド入門』(東京大学出版会),『南アジア史』(山川出版社),『カレー学入門』(河出書房新社)などがある.文化功労者.
大村次郷(おおむら・つぐさと)
写真家.1941年,旧満州生まれ.多摩芸術学園写真科・青山学院大学卒業.インド,中国などのフォト・ルポルタージュ活動を行う.著書に『新アジア漫遊』(朝日新聞社),『シリーズ アジアをゆく』(全7巻,写真担当,集英社)などがある.
目次
第1章 インドでカレーライスを注文したら
第2章 「カレー」の語源と「カレー」の成立
第3章 留学生活とカレー――マドラス大学院生寮の食事
第4章 カレー好きになる――マイソールでの一家滞在
第5章 ムガル朝の宮廷料理――中央アジアとペルシャの伝統
第6章 カレーの原点――ケーララの海とスパイス
第7章 ゴアのカレーに残るポルトガルの味
第8章 カレーで結ばれたベンガルと日本――ガンジス川の流れとその魚
第9章 辛いスリランカ・カレーとモルディブの鰹節
第10章 現代インド料理の成立――インド文化論
カレー関連用語集