「松本竣介 線と言葉」(コロナ・ブックス:2012年6月8日初版第1刷発行)を読みました。「生誕100年記念」とあります。画家・松本竣介についての本なので、読んだと言うよりは、半分は観たと言った方がいいかもしれません。松本竣介の主要な作品が大きく載っています。本の題名の「線と言葉」は、竣介が書いた文章の中から拾い出してきたもののようです。松本竣介を理解する上での、恰好の入門書です。
この本の巻頭文は堀江敏幸の書き下ろしです。タイトルは「なにが聞こえてくるのかは、誰にもわからない―松本竣介のこと」です。「郊外へ」という堀江の作品の表紙に、松本竣介の水道橋の駅舎を描いた「白い建物」を使ったこと、そして「ここには、ある種の若さにしかない繊細さと脆さが、そして若さだけでは持ち得ない時間と沈黙がある」と述べています。
堀江は、竣介その人は「線が自由にのさばっている絵」の出来を保証する「線」に対して、冷静な言葉を残している、として、以下の言葉を引用しています。「あれから10年たつこの頃の僕の絵には針金の様な黒い線がのさばり帰っている。考えてみると線は僕の気質なのだ。子供の時からのもにだった。それを永い間意識できず、何となく線というものに魅力を感じながら油絵を描いていた処に僕の仕事の甘さがあった」。10代で携わった雑誌「線」の時を振り返っての竣介の発言です。
目次をみると、「作品と言葉」として、次の4項が上げられていて、その後に竣介の書いた文章が3篇載っています。
1.線で生きる
線は僕の気質なのだ。子供の時からのものだった。
2.線が線をよぶ
街の雑踏の中を原っぱを歩く様な気持ちで歩いてゐる。
3.思索する線
真っ白な地の上に黒い線を一日引ひてゐるだけで、僕の空虚な精神は満足する。
4.線を越えて
底のない深淵に立ってゐるものであることを思ひ、私は慄然とします。
宮沢賢治への敬愛
切実な色彩体験
「製図板」描法
以下、「雑記帳」「装幀」「手紙」「生きている画家」「手帖」と続きます。
そして、竣介をよく知る人たちの文章が4篇載っています。特に盛岡中学で同級生だった舟越保武の文章は、竣介に対する愛情に満ちあふれていて泣かせます。
「悪い時代をじっと見つめて―松本竣介36年の軌跡」原田光
「線は一切のものを現す」麻生三郎
「俺の絵は、ちょっと位しみがついても、きずがついてもこわれないのだぞ」舟越保武
「イイシゴトヲシロ オレハヤルダケヤッタ」舟越保武
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