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Channel: とんとん・にっき
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新庄耕の「狭小住宅」を読んだ!

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とんとん・にっき-suba


新庄耕の「狭小住宅」を読みました。なんともタイトルが刺激的です。 「トルコ10日間」の旅を終えて日本に帰ってきた翌日、10月31日の朝日新聞に、松浦寿輝の「文芸時評」に「語りの視点」と題して、以下のようにありました。


新庄耕「狭小住宅」は、不動産会社の営業マンを主人公として、かつ語り手として設定した一人称小説であり、視点もまた当然この「僕」の内部に固定される。やくざ紛いの上司の恫喝に圧迫されつつ、客を籠絡する技量に長けていく過程で、「僕」がいったい何を失っていったかを、作者は「僕」の視点の外部からやんわりと問いかけている。狭小地に鉛筆のように建つ都市住宅に「邸宅」の夢を見る人々と、その夢に付け込んで利ざやを掠め取ろうとする不動産屋との、どこかもの哀しい心理戦が活写されている。途中に挿入される恋愛のエピソードがステレオタイプの域を出ていないのはやや残念だが、丹念な取材から生まれた説得力のある細部と、無駄のないハードボイルドな文体の躍動感には、小説の魅力が横溢している。


さっそくアマゾンから購入して、一気に読んでみました。ちなみに「狭小住宅」は、第36回すばる文学賞の受賞作品です。僕の興味のさきは、魑魅魍魎の「不動産屋の世界」と、まさに「狭小住宅」そのものです。「物件」を売ることが仕事の会社と、売買される「物件」、つまりは「狭小住宅」です。狭小住宅はペンシルハウスとほぼ同義語です。


ペンシルハウスは20坪前後の狭い土地に建てられる狭小住宅を指す。正面から見ると鉛筆のように細長く見えるため、いくらか揶揄する意味を込めてそう呼ばれる。容積を最大化するため建物は3階建て。日照権の関係で多くは屋根が鋭角に切れこんでいる。1台分の車がぎりぎり停められる車庫の上部に、2階分増築されたように見えなくもない。最新のシステムキッチンや浴室を備えるなど内部は機能的で、決して安普請というわけではないのに、家屋としての風格はやや希薄で、住宅街の中にペンシルハウスがあるとどこか異様な感じさえする。


小説「狭小住宅」のフィールドは、城南エリア、つまり駒沢や三軒茶屋、用賀や桜新町、いやまさにドンピシャ、僕の家の近所の過密住宅地、狭小住宅地ばかりです。主人公は「今日こそ辞める」と思いながらも、不動産屋の営業を辞められません。最もありえなさそうな奴が不動産屋をやってると、友人は嘲笑気味に言います。すべての評価はどれだけ家を売ったか、そんな単純な数の積み上げで評価される以外、なにも残らない仕事です。主人公は以下のように自問します。


ろくに就職活動をすることなく、苦し紛れに今の会社に入った。営業に配属され、とにかく家を売れと言い渡された。胃痛をおぼえるようなノルマ、体を壊さずにはこなせないほどの激務、そして挨拶代わりの暴力。逃げ出さないのが不思議なぐらいヤクザな毎日だった。・・・なぜ、僕はこの世界に足を踏みいれ、今も居つづけるのだろう。


朝礼後、伊藤部長に呼ばれた。「お前、来週から駒沢な」、突然、恵比寿本店から駒沢支店へ移動させられます。「てめぇ、何だその顔は。お前、全然使えねえから戦力外通告。売れねぇし、辞めねぇし、明王出て偉そうだし、だから異動。いらねぇ。うちも明王大学のお坊ちゃん抱えられるほど余裕ないんだ。わかったらさっさと行け」。駒沢支店は、一戸建て売買の総本山ともいわれる都心城南エリアを根城とし、重要支店の一つ。


朝礼後、山根部長に挨拶に行く。「おまえ明王出てるんだってなぁ。どうせ売れねぇんだったら辞めちゃえよ、なっ、頑張るだけ無駄なんだから、なっ」。駒沢支店の営業は三つの課があり、僕はそのうちの「営業二課」に配属されます。二課をまとめるのは豊川課長、彼はそれまで恵比寿で見てきたどの課長ともタイプが違っていました。恒に落ち着き払い、淡々としていました。一課や三課の課長が恵比寿の上役と同じタイプだったので、よりその異質さは際立っていました。


「松尾君だっけ、松尾君が二課に入ってきてよかったよ、マジよかったよ、と豊川課長の下で働けるんだもん、課長は昔、5年以上も全支店で売り上げトップだった営業マンなんだよ、ヤバイだろ、5年以上ずっとだよ。・・・食らいついてでも辞めない方がいいよ、こんな凄い人と働けるなんてマジでついてるんだから・・・」と河野さんは話さずにはいられないといった口ぶりでまくしたてます。


続く




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