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伊東豊雄の「あの日からの建築」を読んだ!

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伊東豊雄の「あの日からの建築」(集英社新書:2012年10月22日第1刷発行)を読みました。「あの日」とは、もちろん東日本大震災の日です。「3月11日に地震が発生した時、私は渋谷にあるオフィスの4階で打ち合わせをしていました」と、この本は始まります。茫然自失のなかで、伊東が設計を手がけた「せんだいメディアテーク」がどうなっているかがいちばん気になったという。


伊東はすぐに仙台市の奥山市長や館の人たちにお見舞いのメールを送ります。その決断の早さ、メールの日付は3月23日、それを読むとその後の伊東の姿勢が明確に記されています。東北大の学生が、自分は特に目的があってメディアテークを訪れる訳ではないということを引用し、「目的はないけれども何か安心できる場所」こそが、被災した人びとに最も必要とされる施設ではないかと指摘しています。


東北3県に今回建てられた仮設住宅はおよそ5万戸、そのほとんどが鉄骨系のプレファブで、性能の悪さは話題になりましたが、伊東が気にしたのは、、均質な住戸ユニットを並列する非人間的な考えに対してでした。「この平等主義、均質主義は仮設住宅に限らず、現在の日本の精神の貧困を象徴しています」と伊東は言います。そんな仮設住宅での生活を見て、こうした人びとが一緒に話し合ったり、食事のできる木造の小屋をつくることができないかと、考え始めます。こうした考えで、仙台市宮城野区の公園内に設けられた仮説住宅地に「みんなの家」第1号はつくられました。


2012年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展において、伊東は日本館のコミッショナーを務めることになります。伊東の選んだテーマは「ここに、建築は、可能か」でした。参加アーティストは、陸前高田出身の写真家の畠山直哉と、3人の建築家・乾久美子、藤本壮介、平田晃久の3人です。陸前高田に敷地を選び、3人の共同設計による「みんなの家」の設計から施工に至るドキュメントを展示しようと考えます。偶然、一人の女性、菅原みき子さんとの出会いがあり、急速に「みんなの家」の構想が固まっていきます。これらの日本館の展示によって、ヴェネチア・ビエンナーレの最高の栄誉である金獅子賞を獲得することになります。


僕はこの本の第5章「私の歩んできた道」から読み始めました。伊東豊雄は、菊竹清訓事務所の出身で、一時、篠原スクールとも言われたことがありました。「大阪万博への懐疑」、「時代の閉塞感を反映した建築」から「社会性を持った建築への転換」へと、伊東の建築を例にとって、その時代時代の建築への取り組み方が詳細に書かれていました。その後、バブル時代の東京から構想されたという「イメージとしての建築」が続きます。その後、「八代市立博物館」など、公共建築も手がけるようになり、伊東の代表作「せんだいメディアテーク」へと至ります。


こうした経験を経て、第6章「これからの建築を考える」で、伊東の考えている社会と建築家のあり方を提案します。そして「おわりに」には、以下のように書かれています。

私たちが仙台市宮城野区や釜石市につくった「みんなの家」は、決して都会的ではない。個としてのオリジナルな表現もほとんどない。その結果私たちは、地域の人びとと心をひとつにしてつくることができた。だから道はあるのだ。ここから、これからの建築を考えることはきっとありえるに違いない。新しい建築の第一歩がここから始まる予感は十分にある。


伊東豊雄:略歴

1941年生まれ。建築家。東京大学工学部建築学科卒業。菊竹清訓建築設計事務所勤務後、伊東豊雄建築設計事務所設立。ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル、高松宮殿下記念世界文化賞など多数受賞。主な作品に、せんだいメディアテーク、TOD’S表参道ビル、多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)など。著書に「透層する建築」(青土社)、共著に「建築の大転換」(筑摩書房)など。


カバーの裏には、

東日本大震災後、被災地に大量に設営された仮設住宅は、共同体を排除した「個」の風景そのものである。著者は、岩手県釜石市の復興プロジェクトに携わるなかで、すべてを失った被災地にこそ、近代主義に因らない自然に溶け込む建築やまちを実現できる可能性があると考え、住民相互が心を通わせ、集う場所「みんなの家」を各地で建設している。本書では、国内外で活躍する建築家として、親自然的な減災方法や集合住宅のあり方など震災復興の具体的な提案を明示する。

あの日からの建築
目次


はじめに
第1章 あの日からの「建築」
第2章 釜石復興プロジェクト
第3章 心のよりどころとしての「みんなの家」
第4章 「伊東建築塾」について
第5章 私の歩んできた道
第6章 これからの建築を考える
おわりに


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