ソン・ウォンピョンの「三十の反撃」(祥伝社:令和3年8月20日初版第1刷発行、令和4年4月10日第3刷発行)を読みました。
本屋大賞翻訳小説部門第1位『アーモンド』の著者が放つ待望の第2弾!
生きづらい今、すべての人に勇気をくれる共感必至の傑作!
『アーモンド』が人間という存在そのものへの問いかけだとすれば、『三十の反撃』は、どんな大人になるかという問いへの答えである。
ーーーソン・ウォンピョン
1988年ソウルオリンピックの年に生まれ、三十歳になった非正規社員のキム・ジヘ。88年生まれに一番多い名前「ジヘ」と名付けられた彼女はその名の通り、平凡を絵に描いたような大人になっていく。
大企業の正社員を目指すジヘの前に現れたのは、同じ年の同僚ギュオク。彼の提案する社会への小さな反撃を始めることになったジヘは、自身を見つめなおし、本当にしたかったことを考えるように。そして、ついに「本当の自分」としての一歩を踏み出すことになる――。
「それでも、慰めになる事実があります」
ギュオクが低い声で言葉を続けた。
「私たちはみんな、情けないということ。本当に、取るに足りないちっぽけな存在です、特別なふりをしても、顕微鏡でのぞいて見れば誰だってあくせく動き回っているだけなんです。何とかして、自分の存在を認めてもらおうとあがきながら」
「存在をどうやって認めてもらうんですか。私が誰なのか自分でもわからないのに、何を認めてもらおうって言うんですか」
私は自分が何を言ってるのかもわからずに、泣きながら言って。
その時、ふわふわとした温かい気配が私を包んだ。
「その悩みは」
ギュオクが私を抱きしめていた。大きな体で体重もかけずに、温かく軽く、彼の声が少し低くなって。
「おそらくその悩みは死ぬまで続くでしょう。百歳になるまで同じことを考えるでしょう。寂しいと、自分が何者かわからないと、私の人生にはどんな意味があっのかと。そう思うたびに寂しいし、ぞっとします。でももっと怖いのは、そんな悩みを知らずに生きることです。ほとんどの人はその質問に顔を背けます。向き合うと苦しい上に答えもなく、疑っては探究することの繰り返しでしかないから、生きるということは結局、自分の存在を疑う終りのない過程にすぎません。それがどれほどつらくて堪え難いことなのか知っていく…」
「やめて、やめて。もう何も言わないでください!今、私に必要なのは言葉ではありません、説明でも論理でも、人生の講義でもないんです」
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