山種美術館で「桜 さくら SAKURA 2012」を観てきました。今回は「青い日記帳」のTakさんと山種美術館の特別のご配慮により、閉館後の展示室を貸切り、山崎妙子館長のギャラリートークをお聞きすることができました。時間は5時15分頃から約45分間。参加者は約80人。その後7時まで自由に観て回りました。先回の「ベスト・オブ・山種美術館展」でも同じギャラリートークがありましたが、残念ながら僕は参加できませんでした。
山種美術館は広尾に移る前は、桜の名所千鳥ヶ淵の近くにあり、「桜さくらサクラ」展としては、2001年から千鳥が淵のお花見の時期に合わせて開催し、好評を博してきたようです。僕は2009年、山種美術館が広尾に移る前、最後の展覧会を観に行っていました。その「桜さくらサクラ・2009」展には「さよなら、千鳥が淵」と副題が付いていて、桜の名所・千鳥が淵での最後の展覧会となったわけです。
その時のチラシは、上部に東山魁夷の「春静」が、下部に石田武の「千鳥ヶ淵」が使われていました。今回の「桜 さくら SAKURA 2012」展のチラシは、満開の桜を画面一杯に描いた橋本明治の「朝陽桜」です。副題は「美術館でお花見!」とあります。「画家の言葉」には、福島県三春町で写生した滝桜をもとにして構図したという。650年の樹齢を数え、天然記念物に指定されています。満開の花の姿を写生に通ったが、根回り11mにも及ぶという巨樹から地上に垂下するべにしだれの見事さは、実に圧倒される思いだったという。
さて、今回の「桜展」、もちろん目玉は奥村土牛の「醍醐」です。僕はもう何度も観ているのですが、今日観た「醍醐」は、どうしてなのか特に大きく見えました。山種の「生誕120年奥村土牛展」を観たときに、「城」「茶室」や「門」が、建築的な絵なので、僕はいっぺんに土牛が好きになりました。それはさておき「醍醐」ですが、「制作秘話」によると、「醍醐」を描くきっかけは小林古径が死んで、奈良で行われた七回忌の法要に土牛は東京から駆けつけます。帰りに古径の娘さんたちと京都に寄り、例年になく満開という醍醐寺を訪れ、その入口の三宝院の土塀前のしだれ桜の見事さに、土牛は息をのんだという。かけがいのないこのモチーフを古径から授かって、是を描き挙げるまでに土牛は10年近い歳月をかけたという。
土牛の「吉野」、山種館長の「土牛はセザンヌを意識していた」という趣旨の解説があり、なるほどと思いました。「吉野」では、細かいところまで描かなかったという。近寄ってよく見てみると、たしかに遠景は薄ぼんやりした印象で全体的に薄塗、右手前の桜を描いた部分のみ、厚塗りされていました。色面でとらえた遠景の桜山と、花の詳細を描き込んだ近景の桜との対比。吉野山の桜は現在200種約3万本を誇り、満開の山の景観は壮大だという。土牛は新緑と秋の時期を含め3度吉野を訪れて「吉野」を完成させます。奈良時代から江戸時代に至るまで、吉野の桜は歴史と共に歩んできました。そんぽ歴史の重みが土牛の心をとらえ、歴史画を描いているような気持ちが込み上げ目頭を熱くしながらの制作だったという。
今回、始めて気がついた、というか、驚いたのは石田武という画家です。これほどまでに「桜」を描くかと、驚きました。下に載せただけでも「月宵」「春宵」、そして「吉野」「千鳥ヶ淵」、まさに桜の画家です。大正11(1922)年京都生まれ、2010年に88歳で亡くなりました。昭和15年京都市立美術工芸学校図案科卒業。日本画を森守明、洋画を太田喜二郎に学ぶ。新制作展、京都市展などに出品、後に動物図鑑などの挿絵を描いた。46年日本画に転向し、48年第2回山種美術館展大賞受賞。個展を中心に活動、現在無所属。とあります。やや経歴が異質のようです。
展覧会の構成は以下の通りです。
第1章 名所の桜
第2章 桜を愛でる
第3章 桜を描く
他にも、羽石光志「吉野山の西行」、森田曠平「百萬」、加藤登美子「桜の森の満開の下」が、新しい画風で注目されました。全体的に2009年に開催された「桜 さくら サクラ」展の時と、出されていた作品はほとんど同じ山種美術館所蔵の作品のように思いました。奥の小さい部屋について、計画当初はコンセプトとしては、山種コレクションの常設展示を考えていたが、現在は各種展示会の第2会場のような使われ方になっていること。今回の音声ガイドはテレビ東京の女性アナウンサーにお願いしたこと。次回は、特別展「生誕120年 福田平八郎と日本画モダン」が5月26日から開催されます。山種所蔵の作品だけでなく、広く福田平八郎の作品を集めた新しい試みの展覧会です。
名所の桜
桜を描く
特製和菓子
「桜 さくら SAKURA 2012」
山種美術館は、1998年から2009年まで桜の名所・千鳥ヶ淵の近くに位置し、毎年春には桜をテーマとした展覧会を企画してご好評をいただいてきました。2009年に広尾に移転した後、現在でも、毎年桜を描いた作品を鑑賞したいというお客様の声が多く寄せられています。こうした声にお応えし、本年は待望の「桜」を題材とした作品を一堂に公開いたします。絢爛と咲き誇り、いさぎよく散る桜の花は、古来より人々の心をとらえ、日本を象徴する花として愛されてきました。古くは平安時代の貴族の調度や器物にその姿が登場し、やがて鎌倉期の鎧や甲冑に見られる桜文様が武士の精神を表現するものとして好まれるようになります。その後、室町期に多様化した桜のモチーフは、桃山時代以降の屏風や調度の意匠に取り入れられ、元禄期にはお花見に興じる人々の姿とともに表現されるようになります。こうして日本人の生活や歴史と密接にかかわってきた桜は、明治以降も愛され続け、現代にいたるまでさらに多くの画家たちを魅了しています。本展では、平安以降詠まれてきた和歌や俳句、あるいは「歴史画を描いて居る思いがした」(奥村土牛)、「桜は匂うかのように浮ぶ」(東山魁夷)、「古代裂を見る様な微妙な色の階調」(奥田元宋)など画家たちが桜を表現した言葉を添えながら、桜の名作をご紹介いたします。なかでも、冨田溪仙の屏風《嵐山の春》(当館蔵)は修復を終え、15年ぶりの公開となります。日本の国花として知られる桜の絵画が満開となる美術館で、花の競演とお花見を楽しんでいただければ幸いです。
注:会場内の画像は内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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