たばこと塩の博物館で「紫煙と文士たち 林忠彦写真展」を観てきました。今回取り上げられた文士は59名、80点を超える作品です。懐かしい文士の顔と、さすがは「たばこと塩の博物館」らしく、紫煙からなる作品です。文士と煙草はお似合いです。
なかでも最もよく知られている写真は、銀座のバー「ルパン」の狭いカウンター席で、戦後風俗そのままに兵隊靴で、酒場の椅子にあぐらをかいた無造作な容姿で、いかにも類を見ない得意な風貌の写真です。いうまでもなく「太宰治」その人です。昭和29年暮れに撮影されたものです。太宰治との邂逅はこの時だけで、後にも先にも初対面でのたった1回の、ワンチャンスだったというから凄い。
展示されたものの中から、僕がよく読んだことのある作家を取り上げて、以下に載せておきます。懐かしい顔です。それにしても、皆さん、若いです。(続く)
林忠彦の略歴は以下の通りです。
大正7年(1918)山口県徳山市(現・周南市)の林写真館に生まれる。戦前より政府の宣伝誌をはじめ多数の雑誌に発表し、終戦後は世相や文士を中心に撮影。掲載誌は20誌以上に及んだ。日本写真家協会年度賞をはじめ数多くの写真賞を受賞。平成2年(1990)「東海道」を刊行し死去。享年72歳。
「林忠彦写真展 ~紫煙と文士たち~」
林忠彦(1918~1990)は、「昭和」という時代を代表する写真家の一人で、日本の写真界をエネルギッシュに牽引、常に第一線で活躍し生涯現役であり続けました。
戦前から報道・宣伝写真のカメラマンとして活躍し、終戦後は、混乱期の街頭や、そこにたくましく生きる人々を捉えた写真、小説家などのポートレイトを撮影し、人気写真家として知られるようになりました。特に戦後の文壇を賑わせた「無頼派(新戯作派)」の作家たちの写真は、林忠彦の代表作として知られるのみならず、多くの人が思い浮かべる個々の小説家のイメージにもなりました。銀座のバー「ルパン」の狭いカウンター席で時代を謳歌するかのような風貌の織田作之助や太宰治、雑然と散らかる書斎でレンズに対峙する坂口安吾の姿など、背景も含めて多くの人の記憶に残る作品群となっています。他に、家元・画家・財界人などのポートレイトや茶室、街頭風俗や各地の風景などを撮影したシリーズも有名です。林忠彦の作品は、ポートレイトであれ風景であれ、彼がファインダーを通して切り取った画面には、必ずストーリーが内在するのが特徴です。
今回は、林忠彦の代表作ともいえる文士のポートレイト作品から、文士とともに「たばこ」が写し込まれた作品を80点ほど選び構成しました。文士が手にし、あるいは傍らにあるたばこの姿は、さらにその文士たちの個性を豊かに演出しているようです。文士の肖像としての林忠彦の作品とともに、その時代の香りを紫煙とともに感じていただければ幸いです。
図録
2012年1月21日発行
編集/発行:たばこと塩の博物館