まったく対照的な2人の作品、堂東由佳の作品はシルクスクリーン版画、村田彩の作品は動植物をモチーフにした陶のオブジェですから、対照的なのは当然のことですが、一方はストイックなまでのモノトーンで、もう一方は毒々しいまでの鮮やかな色彩です。堂東由佳の作品は描かれている小さな図形は面白可笑しく、それをコピー&ペースとして文様をつくり、「嘔吐・下痢・発熱」シリーズや「Butterfly room」シリーズの作品を作り出します。村田彩の作品は、南洋の多肉植物や海の生物のような、今にも動き出しそうな生命体を、一つ一つ手びねりの手法で、陶で表現します。
堂東由佳展―virus―
堂東由佳の作品はシルクスクリーン版画です。
通常の距離で目にしたとき、モノクロの繊細なレース模様のように見える画面は、接近してよく見ると、5ミリ~1センチほどの小さな猫が無数に連なって構成されています。さらによくよく目を凝らすと、可愛らしく擬人化された小さな猫たちは、嘔吐・下痢・発熱を繰り返し、無限に増殖しています。細かなモチーフは刷り重ねられた版によってつぶれ、あるいは最初から見えないほど微細で、「見る」という行為をいじわるに揺さぶります。美しいレースかと思えた画面が、可愛い中にも毒を含んだユーモアの伝染病にも似た集積であることに、思わず笑い、その中に不安や困惑の小さな鎖が繋がっていきます。
堂東由佳は1983年生まれ、2011年に京都市立芸術大学美術研究科を卒業したばかりの若手作家です。美術大学に入る前から手癖のように小さなドローイングを無意識にしていたという堂東は、在学中にそれをモチーフに使い、コピーペーストして連続模様となる作品をつくり始めます。
保健所の講習で聞いた「食中毒になると、嘔吐・下痢・発熱になります」という言葉に触発された落書きから、「嘔吐・下痢・発熱」シリーズが生まれました。猫のモチーフのほか、カーテンに蝶を重ね合わせ、遠くから見るとカーテンで、近寄ると笑うチョウチョが連なる「Butterfly room」シリーズは、文様パターンの重なり連なりが、カーテンに似ているところから発想されました。額を縦横に重なるよう並べた展示方法は、カーテンそのものの重なりや広がりをも連想させてユニークです。
東京初個展となる今展では、9台のテーブルの上に新作を並べ、5メートルの大きさのインスタレーションを行います。壁には「Butterfly room」シリーズを展示する予定です。距離を測りつつ、さらりと見られることから身をかわし、さりとて近づくのもなんだか難しい・・・おかしみと不安といじわるな笑いを、是非会場で体験してください。
堂東由佳:略歴
1983年 兵庫県出身
2011年 京都市立芸術大学美術研究科絵画専攻版画修了
村田彩展―陶 彩りの庭―
村田彩の作品は、動植物をモチーフにした陶のオブジェです。緻密な練り込み模様の断片を何枚も張り合わせてつくる、南洋の多肉植物や海の生物のような明るい色とかたちがエネルギッシュな印象です。青やオレンジ、グリーンにピンクといった鮮やかな色彩は毒々しい美しさを思わせ、ボリュームのある造形が動き出しそうな生命力とパワーを放っています。
ポップな色模様は動植物の顕微鏡細胞写真を参考にしています。制作方法においても、細胞が集まって生命の一つのかたちになることから始まりました。当初象嵌技法で文様を制作していましたが、熱帯植物の葉の裏表で模様が異なることを知り、より近い制作方法を選んで、金太郎飴のようにどこを切っても文様の現れる練り込み技法を使っています。表現したい色や細密さを目指して、土の組み合わせ、組み合わせる土の収縮率の違いから起こる破損を解決し、この3年間研究と試行錯誤を重ねてきました。その結果2011年春には台湾の鶯歌陶磁博物館で個展を開催し、「深海植物」をテーマに、貝、イソギンチャクを思わせる様々な海底生物が蠢く豊かな作品を発表しました。
村田彩は京都造形大学短期大学で陶芸を始め、卒業後は働きながら制作し、コンペティション出品や個展を続けてきました。当初からの明るく華やかな持ち味は変わりませんが、枝を広げるように大きく大胆な作品から、次第にサイズが小さくなり、装飾とかたちが一体化して凝縮した美しさを表すようになってきました。海を連想させる青を中心とした色彩がさらに洗練されたコントラストに変わりつつあります。
今展では、台湾で発表した作品と、新しい色彩の組み合わせによるイソギンチャクやヤドカリをモチーフにした新作を含めて発表する予定です。どうぞ会場でご覧ください。
村田彩:略歴
1979年 京都府生まれ
1997年 京都市立銅駝美術工芸高等学校 漆芸科卒業
2000年 京都芸術短期大学 陶芸科卒業
2004年 京都府立陶工高等技術専門校 陶磁器成形科終了
2001~2010年 京都清水焼団地「アートきよみず」にて制作
2010年 国立台南芸術大学にて客員作家として3ヶ月滞在
滋賀県立陶芸の森にてスタジオアーティストとして4ヶ月滞在
2011年 国立台南芸術大学にて客員作家として3ヶ月滞在
滋賀県立陶芸の森にてスタジオアーティストとして4ヶ月滞在
新台北市立鶯歌陶磁博物館レジデンスアーティスト
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