山種美術館で「クールな男とおしゃれな女―絵の中のよそおい」を観てきました。
今回展示されているのはもちろん、ほとんどが日本画と錦絵です。が、しかし、和田英作の「黄衣の少女」と林武の「少女」、この2点はカンヴァスに油彩で描かれています。「黄衣の少女」のモデルは、和田英作の弟子・薄拙太郎の三女・茂子です。背景の赤い布と少女の黄色いワンピースがコントラストを生み、少女のきゅっと結んだ口元に利発で芯の強そうな彼女の性格が見られます。
チラシでは、江戸の絵画や浮世絵の粋なよそおいから、近代・現代の日本画や洋画に描かれたモダンなよそおいまで、各時代のスタイリッシュな男女の着こなしを紹介する、としています。その流れで最も「イケメン」はというと、大方の人が指摘している通り、猪飼嘯谷の「楠公義戰之図」に描かれた男でしょう。
目に付くのは、チラシに載っている4点の男女です。男は、守屋多々志の「慶長使節支倉常長」と安田靫彦の織田信長を描いた「出陣の舞」です。支倉常長は、仙台藩主・伊達政宗が派遣した慶長遺欧使節の大使で、イスパニアを経てローマで教皇パウロ五世に謁見し、ローマ市公民権を与えられます。この作品は、ローマ滞在時の常長をモダンな感覚にあふれた清新なイメージに仕上げています。背景にはフォロ・ロマーノやサン・ピエトロ大聖堂が詳細に描き込まれています。織田信長は桶狭間の一戦を前に、清洲城内で幸若舞「敦盛」を舞ったと言われていることにちなんで描かれたものです。
女は、伊東深水の「吉野太夫」もいいですが、深水は「婦人像」、上村松園は「春のよそをい」です。「婦人像」のモデルは女優の木暮実千代、白い帽子、赤い手袋、そして胸の開いた大きな白襟がついた赤い花柄のワンピースという、いかにも女優らしい華やかな出で立ちです。金屏風を背にし、黒漆塗りの机の表面に、艶やかなその姿が映り込んでいます。この展覧会のテーマ「絵の中のよそおい」は、松園の「春のよそをい」からきていることは言うまでもありません。
そしてこの展覧会のテーマであるところの「クールな男とおしゃれな女」のすべてを表していると思われるのは、池田輝方の「夕立」でしょう。「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション」でも取り上げられていました。夏の夕刻、突然の雨に見舞われ、神社の額堂と門前で雨宿りをする人々を描いています。彼らの表情や仕草を見ると、一人一人にドラマがありそうで、芝居の一場面を見ているようです。右隻は真横から、左隻は斜め上からのアングルになっています。右隻左端に立っている粋な男と、中央で裾をたくし上げ手拭いを絞っている女、この二人、曰く因縁がありそうです。
展覧会の構成は以下の通り、至ってシンプルです。
第1章 クールな男
第2章 おしゃれな女
第3章 よそおう男女
第1章 クールな男
第2章 おしゃれな女
第3章 よそおう男女
「クールな男とおしゃれな女―絵の中のよそおい」
「クール・ジャパン」が一つの流行語にもなりつつある昨今、流行がめまぐるしく移り変わるファッションの世界においても、日本人の美意識を活かした洋装や、伝統的な和装を楽しむ人が増えています。特に最近は、美術館が和服を着て出かける場所としても好まれ、当館でも年間を通して、多くの美しい着物姿の来場者を迎えています。こうした現象は、日本人が古くから培ってきた美意識や文化が注目され、そこに新たな価値観が見出されてきた証といえるでしょう。一方、西洋文化が入ってきた近代以降は、洋装に身を包むダンディな男性、トップモードで着飾る女性も時代のファッションリーダーとして常に注目される存在でした。こうした各時代の特徴あるファッションは、画家たちをも魅了し、近世から現代にいたる様々な絵画作品の中に描かれていきました。日本の絵画の中の 「よそおい」もまた、時代とともに変遷し、流行を敏感に映し出しているのです。
本展では、江戸絵画や浮世絵の粋なよそおいから、近代・現代の日本画や洋画に描かれたモダンなよそおいまで、各時代のスタイリッシュな男女の着こなしをご紹介いたします。小林古径の雅な平安装束姿の色男、安田靫彦や前田青邨の独創的な出で立ちの戦国武将。写楽や豊国が描く役者たちの舞台衣装に、池田輝方の江戸っ子の粋な着流し姿―。各時代の最先端を行くクールな男たちのよそおいに、現代の私たちも大いに刺激されることでしょう。
女性像では、伊東深水が描く女優・木暮実千代の華やかな洋装、鏑木清方の艶やかな女性や上村松園の清楚な娘の和装。さらに、洋画家・安井曽太郎や林武が描く小粋な衣服―。こうした作品には、顔の表情だけでなく装身具や髪形、色の組み合わせにも、人物の個性や魅力が巧みに描き出されています。随所に表れた画家の美意識や色彩感覚を味わい、着こなしのヒントを発見しながら、絵の中のファッションを思い思いにお楽しみいただける展覧会です。
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